2023年9月から10月ごろに首都圏の大学運動部を中心に薬物汚染が次々に明らかになっていますが、まだまだ氷山の一角、おそらく地方都市にも拡がっているでしょう。
社会問題化している薬物汚染の渦中に飛び込んできたのが合成大麻成分*HHCHを主成分とする大麻グミ事件とオピオイド系鎮痛剤のネット通販拡大策.
*HHCH:(hexahydrocannabihexol:ヘキサヒドロカンナビヘキソール)大麻のカンナビノール合成成分HHC、THCH(テトラヒドロカンナビヘキソール)が規制対象となったために、新たに開発された脱法目的合成物質
ノギボタニカルでは2000年ごろより脳視神経、腎臓、肝臓障害の原因となる、スポーツ選手のドーピング、覚せい剤乱用に関し、世界の実態を取材しています。
この秋のオピオイド系鎮痛剤蔓延の異常事態にあたり、これまでの関連記事より部分抜粋いたしました。
1. 社会問題化するオピオイド系鎮痛剤蔓延
日本は先回の法改正によりネットやコンビニで容易に医薬品が買えるようになり、アマゾンにも自社ブランドの麻薬系鎮痛剤、「PHARMA CHOICE」の麻薬系咳止め薬「コンコン咳止め錠 120錠」があります。
「コンコン咳止め錠」はこれまでのアンフェタミンに代わるリン酸ジヒドロコデイン塩(Dihydrocodeine Phosphate )の享楽目的者が対象となり、1錠に2㎎含有していることを大書した医薬品様ボトルを使用しています。
日本ではネット、コンビニで麻薬系鎮痛剤の売り上げが急増 法改正で最も恩恵を得たのは麻薬系鎮痛剤メーカーと販売者。
ドラッグの代替と考える若者はリン酸ジヒドロコデイン塩が容易に大量購入できる前は合成麻薬系鎮痛剤のアセトアミノフェン(Acetaminophen)を使用していました。
ドーピングに使われるアナボリックステロイド(THGなど)とアンフェタミン型覚せい剤
アナボリックステロイド(THGなど)と アンフェタミン 型覚せい剤
より強力な麻薬系鎮痛剤リン酸ジヒドロコデイン塩が容易に大量に手に入るようになり、享楽用にはアセトアミノフェンを主体の市販風邪薬は使用されなくなりました。
法改正後は一定量までなら制約のないリン酸ジヒドロコデイン塩が主流となったのです。
2. 厚生労働省が指摘する日本の若者に蔓延する麻薬系鎮痛剤
2019年8月、厚生労働省は最新の実態調査の結果として、特に10代の若者がせき止め薬やかぜ薬の市販薬である麻薬系鎮痛咳止め剤のブロン、パブロンなどを乱用していると発表。
10代の薬物依存者が愛用していた危険ドラッグが、ピークだった2014年の48%から2018年にはゼロとなり、MDMAなどの覚せい剤より安価で誰でもが手に入るエスエス製薬のブロン、大正製薬のパブロンなど麻薬系鎮痛剤の市販薬販売が41%と急増。
恐ろしい腎臓損傷の副作用が予想される常習服用者が14-5%にはなるだろうと推定されています。
*1953年4月1日麻薬及び向精神薬取締法
3. オピオイド危機:The Opioid Crisis”が渡来か
今月新たに明らかになったのがネット通販規制緩和による医薬品販売増強案.
薬剤師、医師によるオンライン問診の義務付けなど、形は整えると言われますがネット通販が許されるようになった「バイアグラ」のネットや電話による通販の現状は無責任な医師による無法状態。
予想される対面販売規制の緩和で、将来の麻薬系鎮痛剤の通販は野放し状態になるでしょう。
関係者は米国が10年かかり、やっと収束させた「*オピオイド危機」が制約のない日本で息を吹き返すことになることを恐れています。
米国では有力マスコミの活躍で「オピオイド危機」が撲滅されましたがコロナ禍で巨利を得たファイザー社を筆頭に医薬品製造会社と政権与党の癒着には歴史があり、簡単に断ち切れる状態ではありません。
「オピオイド危機」壊滅の援軍なった有力マスコミの敏腕記者と日本では制約のないオピオイド系麻薬鎮痛剤の全面禁止でした。
*”オピオイド危機:The Opioid Crisis”
米国で麻薬系鎮痛剤の乱用により死者が目立つようになったのは2000年前後。
1996年にオピオイド系鎮痛薬オキシコンチン(OxyContin)が売りだされたからです。
ロアスアンジェルスタイムスが2016年に米国人の約5万人がオピオイド系麻薬鎮痛剤のオキシコンチン(OxyContin)関連の中毒症状で死亡したことを暴露。
発売以来の累計では700万人以上がオキシコンチン関連障害を発症、20万人以上が死亡していることを詳細調査、2017年に発表しました.
アメリカ疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)は、オキシコンチンを長期間服用した人の約24%が薬物中毒になると警告しています.。
製造会社のパーデュー・ファーマ社(Purdue Pharma)は薬物依存性が少ない(と自称する)オキシコンチンを主力商品として、販売開始以来2016年までに約3兆円を売り上げ。
創業者のサックラー家(Sackler family)は一躍全米有数の資産家といわれるようになりました.
オキシコンチン(オキシコドン):OxyContin (Oxycodone).同じです
(下記の記事より抜粋しました)
全米を震撼させた麻薬系オピオイドの危機と背景(前編)
4. オピオイド系鎮痛剤
日本で店頭販売(OTC)されるオピオイド系麻薬鎮痛剤の製造は中小メーカーの独壇場。大手医薬品会社は社会問題化を回避、オピオイド系鎮痛剤は医療目的のみ。
今回予定されている規制緩和は厚生労働省による側面援助政策かもしれませんが「オピオイド危機」が渡来、日本で再燃となれば恐ろしいことです。
米国ではOpioid Crisis以来、悪役として巨利を上げていたパーデュー・ファーマ社(Purdue Pharma)の倒産に続き、製造会社、販売会社が次々に葬られており、統計が確かな国々の販売量比較では製造規制、販売規制が無い日本が600種類も販売しており、トップではないかといわれています。
(下記の記事より抜粋しました)
「全米を震撼させた麻薬系鎮痛剤によるオピオイド危機とその背景」
(後編:日本の実情)
5. オピオイド系鎮痛剤の無法な販売が黙認されるなぜ
店頭販売(OTC)や通販での主用途がレクリエーショナル(享楽)で使用される現実を関係者が黙視する意味は不明ですが、製造者、販売者は過剰摂取の副作用である肝臓、腎臓への有害性をはっきり告知していません。
政治家や生産者の圧力で行政がユーザーのオピオイド系鎮痛剤乱用を(やむを得ず)見逃しているとしか考えられないでしょう。
6. オピオイド系鎮痛剤の店頭販売(OTC)
現在流通しているリン酸ジヒドロコデイン塩含有薬品は、医療用で65種、一般用で約600種.
いずれも麻薬性鎮咳成分といわれるオキシコンチン類似のリン酸ジヒドロコデイン塩(Dihydrocodeine Phosphate)を使用しています。
厚生労働省の発表によると、過剰摂取の対象となっているのは、せき止め薬をはじめ、かぜ薬や鎮痛剤など、20種類以上。
国立精神・神経医療研究センター 松本俊彦薬物依存研究部長の解説によれば「エスエス製薬のブロンのボトル84錠を1日3から6ボトル。使い切ってしまうというような中毒者が少なくありません」
日本の悩める若者は麻薬性鎮咳成分をドラッグの代替と考えており、依存性、習慣性により一日に500から700タブレットの服用者がいる過剰摂取が関係者間で話題となっています。
7. 政策は低年齢者、低所得者など弱者の救済を最優先
今後は、幼さが残る10代の青少年や、低所得、無知などの弱者が多い末端の使用者には、取り締まりではなく、優しく、親身な保護政策を優先して欲しいものです。
極度の貧困、精神的な不安と行き詰まり、親子兄弟姉妹との断絶、友人の少ない孤独。
向精神神経作用薬に「なぜのめりこむのか」を考えてあげるべきでしょう。
悪質なオピオイド系鎮痛剤の製造者、販売者の行政指導ルール無視、販売方法、説明責任の無視、誇大広告には厳しい取り締まりが必須です。
今回のHHCH関連禁止のように脱法目的合成物質への素早い対応も望まれますが、「オピオイド危機」の根絶を目指すには医療以外の麻薬系医薬品は類似品も厳禁。
立法をする政治家の出番を増やし、製造者、販売者の違法、脱法には再起できない厳しい対応が必要でしょう。
8. 主要語と略語の解説
ご自身で詳細を検索してみてください. 英文入力が可能ならば米国情報が、より詳細、明解です.
ケシ(芥子:apaver somniferum)
代表的アルカロイド成分名:
モルヒネ(morphine)、コデイン(Codeine)、パパベリン(Papaverine)、ノスカピン(Noscapine)
実の乳液が麻酔、鎮痛剤、麻薬のアヘン(阿片:Opium Pulveratum)に使用されます。
アヘン(阿片:Opium Pulveratum)
ケシの未熟果実に傷をつけて滲出する乳液を乾燥したもの
オピエート (piate:アヘンアルカロイド)
20種類以上あるといわれる
オピオイド:opioid
アヘンのアルカロイド(オピエート)抽出物natural opioids)や
合成剤の類似品を含めた総称
モルヒネ:morphine
アヘンから抽出されたアルカロイド麻酔薬。常習性のある麻(酔)薬となる
皮下注射が発明された1850年代から麻酔薬に使用されるようになりました。
ヘロイン:heroin
バイエル社から販売されていたオピオイド系鎮痛剤のひとつ。
アヘンに含まれるモルヒネから作られる半合成オピオイド
Narcotic:
麻(酔)薬のこと。成分名ではありません
エフェドリン:ephedrine
エフェドラ(麻黄:Ephedra sinica STAPF )から抽出される
アルカロイド成分。神経に作用します。
日本では全面禁止ですが2004年から米国でも禁止されました。
麻薬のルーツは麻黄(Ephedra sinica:エフェドラ)のアルカロイド
大麻:Cannabis sativa
大麻草の花と葉が麻薬。
大麻は1948年に施行された「大麻取締法」で所持が禁止されていますが、マリファナ(Marijuana)と呼ばれる乾燥大麻を単純に使用することは違法ではありません(近々使用も禁止予定)
マリファナ:Marijuana
乾燥大麻
カンナビノイド:cannabinoid
カンナビノイド(cannabinoid)は大麻(カンナビ:Cannabis sativa)の中に微量に含まれる活性化成分、類似体の総称で、名前は大麻(Cannabis sativa)に由来します。
CBD (カンナビディオール):cannabidiol
カンナビノイドの一種で当初はサプリメントが抗鬱病(うつ)、鎮痛用、睡眠導入目的として販売されました。
ところがCBDの拡がりは医療用途でなくセックスやスポーツなど、享楽用(recreational)に激増し、内因性カンナビノイドの体内生成が阻害されることも含めて問題視されています。
内因性カンナビノイド:endocannabinoid
カンナビノイドの中枢神経を刺激する幻覚、興奮成分は類似物質が人体にもあることが知られています。重要な働きをしていますが、外から合成類似物質を入れることでバランスを崩し、脳疾患の原因となります。
THC:テトラヒドロカンナビノール
カンナビノイドの中心的活性化成分. 天然ですが2022年3月に規制対象となりました。
THCH :(Tetrahydrocannabihexol:テトラヒドロカンナビヘキソール)
THCが規制されたため、新物質として分子構造を少々変えた脱法目的合成物質
2023年7月25日、厚生労働省は、THCHを危険ドラッグとして麻薬及び向精神薬取締法の対象に追加しました。
HHC:(ヒドロキシヘキサヒドロカンナビノール)
THCHと同様にTHC(テトラヒドロカンナビノール)を「水素化」することで作られた脱法目的合成物質
令和4年3月17日付で危険ドラッグとして規制対象となりました。
HHCH:(hexahydrocannabihexol:ヘキサヒドロカンナビヘキソール)
大麻のカンナビノール合成成分HHC、THCH(テトラヒドロカンナビヘキソール)が規制対象となったために、新たに開発された脱法目的合成物質。
大麻グミの主成分(他に違法物質があるとも疑われています)として頻繁な事故が発生しているために規制されることになりました。
2023年11月22日(水)に麻薬及び向精神薬取締法「指定薬物」指定の省令が公布され2023年12月2日(土)に施行が予定されています。