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世界を魅了する食材

世界の生牡蠣市場を支配する日本のマガキ: フランス これであなたも生牡蠣博士第二話:フランスは生牡蠣文化発祥の地.
これであなたも生牡蠣博士第二話:フランスは生牡蠣文化発祥の地.

 

これであなたも生牡蠣博士第二話:

フランスは生牡蠣文化発祥の地.
シーズンにはお魚屋さんに様々なサイズの牡蠣があふれます.M2~M5の数字はサイズ.
小さい数字が大きい牡蠣.価格はダース単位.サイズ2の大きさになると1個単位の価格.
上の写真はマレンヌ・オレロン産の牡蠣を主体に売る店.ファンの多い
ブルターニュのモルレー産プラタルクム牡蠣(マガキ)も特別に扱っています
(下段の写真左上部の赤札表示).取材はナント(Nante:2013年12月)

 

生産者がイラストする大体の大きさ

 

 

*文中の町のシンボルは仏語でブラゾン(Blason:紋様)と呼ばれている。
漁業が有名な町の紋様デザインに帆船のモチーフが多いのが興味深い。

 

1.生牡蠣はフランス発の世界的な生食海産物

9月を迎えると北半球北部はグルメに待ち遠しかった生牡蠣のシーズンに入ります。
生牡蠣といえば、第一にフランスを思い浮かべる方が多いと思います。
事実、歴史が古い初秋のパリ、リヨン、マルセーユなどの都市部ではレストラン店頭に山盛りの生牡蠣が溢れます。
自称グルメは餌のプランクトンを充分に食した春先の牡蠣が美味しいと評価しますが、ノロウィルス、A型肝炎ウィルスや腸炎ビブリオ細菌が付き易い牡蠣は、涼しくなっってからが生食シーズン。
「Rが付く月に生牡蠣を食べてはいけない」のは神話ではありません。
牡蠣(かき)は刺身文化が世界に普及するまでは、数少ない伝統的な欧米の生食海産物でした。
フランス発の生牡蠣文化は200年以上も欧米人を魅了しており、特に米国人の執着と執念は日本人には想像も出来ないほど奥が深いものです。

 

牡蠣産業発祥の地といわれるブルターニュ地方は英仏混在文化.
写真上は数々の戦乱を経た城壁都市のサンマロ(Saint Malo).グルメと中世建築の
町としてシーズンには人口約50000人が数倍になるといわれる有名観光地.

2.フランスの牡蠣主要生産地

歴史ならブルターニュ地方(Bretagne)

Mont-Saint-Michel

Saint Malo

サンマロ湾のカンカル(cancale)周辺が伝統的生産地。
主要養殖地はBretagne Nordの Paimpol, Cancaleから Normandie OuestのAgon Coutainville,
Blainville sur mer, Gouville sur merなど。
有名なモンサンミッシェルMont-Saint-Michel)から車で4-50分。
カンカルのラ・フェルム・マリヌ(La Ferme Marine)には生産現場見学ツアーがあります。
ブルターニュ半島北部Brest近郊のモルレー(Moriaix)産マガキ
(プラタルクム:Prat-Ar-Coum Oysters)を
フランス一と評するファンがいますがどうでしょうか。
また大西洋に面した南ブルターニュには英虞湾(あごわん)を大きくしたような地形があり、
牡蠣の養殖が盛ん。
アーヴェン川(Aven river)とブロン川(Belon river)に挟まれた町(人口4000人強)、
リエック・ブロン(Riec-sur-Belon:Point Aven Finistere)産のオイスターが
古くからフラット・オイスターの代名詞ともなるほど著名(現在は生産量がわずか)。
*Normandie EstにもUtah beach, Isigny, St Vaast la Hougueなどの産地があります。

Riec-sur-Belon
(紋様の真ん中は牡蠣

商業規模ならペイ・ド・ラ・ロワール(Pays de la Loire)地方。

La Rochelle

シャラント・マリティム県(Charente-Maritime)ラ・ロシェール(La Rochelle)近郊の
マレンヌ・オレロン(Marennes-Oleron)地域から
ジロンド河口に近いアルカッション湾(Arcachon Bay)沿いのギュジャン-メストラ
(Gujan-Mestras:ジロンド県:Gironde)に至る広大な大西洋沿岸地域は牡蠣の養殖が盛ん。
パリ、ナントから近いリゾート地帯(パリから車で3時間くらい)として
ヴァカンス・シーズンには多くの観光客が旬の生牡蠣を楽しみます。

 

Gujan-Mestras
(紋様上部に牡蠣が3つ)

 

イル・ド・レ(il de Ré :レ島)
フランスの養殖は扁平な網袋に入れた種牡蠣を
海中の台に据え付ける方法が多い。
レ島はシャラント・マリティム(Charente-Maritime)のラ・ロシェル近郊

この柱状の器具に取り付けられたフィンで種牡蠣を
6-18か月育てる.
種牡蠣が一定のサイズになると下記のように網袋に入れて養殖する.

 

 

3.世界の牡蠣生産量は横ばいか漸減


世界の養殖殻付き牡蠣生産量は圧倒的に中国が多く、280万トン余り/1998年。
世界第二位か第三位の生産量といわれる日本の20万トン前後(殻付きの総重量:むき身は約5分の1)
に較べて14 倍以上ですが、国内消費がほとんど。
中国では炒め料理、スープ、加工食品が主で、伝統的に生食はしません。
香港には世界中に輸出しているオイスター・ソースメーカーの李錦記(りきんき)があります。
中国に続くのは日本、韓国、米国、フランスですが、近年は、いずれも、ほぼ同じ規模の生産量で横ばい。
先進国といえどもウィルス対策が難しいことが壁となっています。

 

4.世界の牡蠣養殖地に普及する、日本のマガキ(Crassostrea gigas)


食文化としての生牡蠣の歴史や伝統は150年以上の差があり、欧米にはかないません。
しかしながら日本が古くから欧米の牡蠣文化を支える重要な役割を
果たしていることはあまり知られていません(2003年現在)。

1970年代に病原性微生物により壊滅的な打撃をうけたフランスの牡蠣養殖産業を
日本の在来品種であるマガキが救い(後述)、その実績が日本のマガキを
世界に広めるきっかけとなりました。
日本のマガキは病原性微生物への抵抗性、成育性(成長速度と生存率)、
味覚の良さに優れているため、中国、フランス、米国(特に西海岸)、メキシコ、韓国、
オーストラリア、ニュージーランドなど世界の主要牡蠣生産市場において
圧倒的にメジャーな品種。
過密生産や病原性微生物の蔓延により減産を強いられる
世界の養殖業者の救世主になっています。

 

 

5.フランス牡蠣の種類:95%以上がマガキ(Crassostrea gigas)


フランスの牡蠣養殖はブルターニュのカンカル周辺や南ブルターニュの
トリニテ周辺が歴史的に著名ですが、現在ではシャラント・マリティム県(Charente-Maritime)の
ラ・ロシェル周辺、マレンヌとオレロン島に挟まれた湾 :bay of Marennes-Oleron)から
ボルドー県のアルカション湾(Bay of Arcachon)に至る大西洋沿岸地域が
大産地となりました。

牡蠣の養殖や塩の生産に適した大差がある干満と、遠浅の海岸.沿岸の美しい町々.
フランスでも高級リゾートとして知られている。

フランスには3種類の牡蠣があるといわれますが実際に市場で売られるのは2種類。
オストレア・エデュリス(Ostrea edulis)
オストレアは丸いタイプの牡蠣(仏:huitre plate)。英語ではフラット・オイスター(Flat oyster)
このタイプはレストランなどではブルターニュの歴史的生産地名のブロン(上述)を冠して
ブロン(ベロン:Belon)と通称されます。
現在は2%くらいのごく少ない生産量ですがフランス牡蠣の誇りであり、アイデンティティーとして貴重な種類。
下記3枚の写真はいずれもフラットオイスター(huitre plate)。
同じフラットでも産地の違うマレンヌ(marenne)、カンカル(cancale)、ベロン(belon)
上段:シャラント・マリティムのマレンヌやオレロン(Oleron)地域で収穫されているもの、
中段:ブルターニュのカンカル産。
下段:ブルターニュのブロン産

 

ブロン(ベロン)の名前の由来となったブルターニュの ブロン産フラット・オイスター(L’huitre plate)

カンカル・ブルターニュ(Cancale-Bretagne)産のフラットオイスター(上)

カンカルのブラゾン(Blason:紋様)はフランス人の誇りである フラットオイスターが帆船の周囲を取り巻くデザイン.

 

Cancale

ブロン(ベロン)の名前の由来となったブルターニュの ブロン産フラット・オイスター(L’huitre plate)

Riec-sur-Belon

 

クラッソストレア・アンギュラータ (Crassostrea angulata)
ポルトガルから1860年に導入されたといわれる凹凸殻の牡蠣。
かってはフランス養殖牡蠣生産の大部分を占めていました。
この種類は病害で壊滅した後も一部には名前だけが残っている様です(2004年現在)。
牡蠣を良く知る人は、商人がポルテュゲーズ(Portugaise:ポルトガル種) と呼称しても、
現在のクラッソストレア・アンギュラータは日本のマガキと同じと理解して、
ジャポネーズ(l’huitre japonaise)と呼んでいます。
産地によってはマガキがアンギュラータ と自然交配しているという説もありますが
定かではありません。

クラッソストレア・ギガ (Crassostrea giga)
フランスでクルーズ(L’huitre Creuse)と呼ばれているマガキ。
クルーズの名称由来はフラット・オイスター(仏語L’huitre plateは平皿)に対する
カップ・オイスター(英:Cup oyster)のフランス語版でスープ用などの
深皿(仏:Assiette creuse)の意。
現在のフランス養殖牡蠣生産量の97.5%近くを占めます。

クルーズ牡蠣(L’huitre Creuse):産地種名ブルトン・サルゾー(Bretonne Sarzeau)

 

 

フランスで生産量の97%を超えて圧倒的に多いのはポルトガル種または日本種と呼ばれる通称、
クルーズ牡蠣.これは日本のマガキを導入したもの.

生牡蠣の販売店では産地別、サイズ別に価格が表示されています。
基本的にはダース単位。サイズの大きいものは1個単位の場合もあります。
生牡蠣は、この写真のサイズ3か4が定番。通常ダース5ユーロ前後。
この写真のは1dz 6ユーロ.(2004年取材時:2013年取材のトップ写真と較べてください)
上の写真下段右の写真は逸品といわれるブルトン・サルゾー(Bretonne Sarzeau)。
ブルターニュ北西部のサルゾー(Sarzeau)の町名は
13世紀頃モルビアンという仏北西部の村の頭領(?)に因んだ名称。
ブロン種の牡蠣は一ダース18から33ユーロと他の牡蠣と比べるとかなり高価。
マガキのクルーズ生産量が年間107390トンに対し、
ブロンなどのフラットは1,650トン(殻付き:2001年調べ)

こんな比率で、美味しいのですから高価なのは止むを得ないでしょう。
 


6.フランス牡蠣の病原性微生物被害とマガキの導入


現在(2003年)のフランスでは在来種に代わって、マガキの生産が90%を超えています。
全フランスの需要を満たすのに充分な生産量ですが、これには理由があります。
1966年から1969年、および1970 から 1973にかけて、
フランスの生産地では2度にわたり、牡蠣が病原性微生物に犯されて
壊滅的な打撃を受けました。
牡蠣グルメや観光客に馴染みの深い通称ブロン(Belon :Ostrea edulis) は
もともと病原性微生物に抵抗力がないため、この時点ですでに2.5%くらいの生
産比率でしたが、生産量の97.5%を占める
アンギュラータ(Crassostrea angulata)が寄生虫類に犯され、
5,000軒を超える事業者に9,000万米ドルの損害を与えました。


事態を重視した事業者達は最初の感染蔓延時の1966年から日本の代表的な牡蠣の
品種であるマガキを検討し始め、日本独特の寄生虫の持込を恐れる人々を
説得し、1971-77年ごろには本格的な導入を開始しました。
その後10年を経たずにマガキは病原性微生物に強く、養殖が簡易なことと、
味の良さでフランス牡蠣の主流となっています。
牡蠣の品種は亜種が出来やすく、マガキとアンギュラータは
自然交配も行われるといわれ、現在はそのような種類も
フランスには混在するのではないかと推測されています(この項は2003年に書かれたもの)。
2002/2003年の生産量は推定120,000メトリックトン(MT:殻付き)。
タンカー等の汚染問題もあり、生産量は減少気味とのこと。

 


7.フランスの牡蠣産業関連業者による「フランスのお返し」プロジェクト

 

La Tremblade

 

2011年3月の大震災で宮城県の牡蠣産業が壊滅的打撃を受けた時
立ち上がってくれたのがフランスの牡蠣産業業者。
1970年代の病害被災時に宮城産マガキの種牡蠣で助けてくれたお礼だそうです。
シャラント・マリティム・レジオンのオレロン島の対岸に、観光地ともなっている美しい町
トランブラード(La Tremblade)があります。
そこで牡蠣の選別やパッキングの機械、器具を製造、販売するミュロ(Mulot S.A.S)社が
先頭に立ち、「フランスのお返し」運動を推進してくれました。
シャラント・マリティム・レジオンの業者ばかりでなくブルターニュ・レジオンの業者にも声をかけ、
10トンを超える養殖関連資材を気仙沼、宮古などの被災養殖業者に
提供してくれたことが報道されています。

 

8.牡蠣の病害に新種の脅威ヘルペス・ウィルスの変異株(OsHV-1 μvar)


2008年ごろよりフランスの養殖牡蠣に被害を与えているのは、これまでの寄生虫ではなく、
ヘルペス・ウィルスの変異株(OsHV-1 μvar)。
当初は2010年までには全滅の危機が近づいていると恐れられ、
アイルランド、イギリスにも飛び火しています。
現在でもヨーロッパ牡蠣産業の重大問題となっており、
「実は宮城県の種牡蠣をまた注文したいと思っていた」とは養殖業者の話です。

これまでの病害は主として寄生虫でした。
*ギル病(Gill desease):魚の鰓などにつく寄生虫               
*パーキンサス・マリナス(ペルキンススPerkinsus marinus):通称デルモ(ダーモ:Dermo
主として米国東海岸のバージニカ種(Crassostrea virginica)に寄生。
*ハプロスポリジャム・ネルソーニ(ハプロスポリヂウム:Haplosporidium nelsoni)
通称:Haplosporidiosis of Pacific oysters、Haplosporidiosis of Delaware Bay oyster、
MSX (Multinucleate Sphere X disease)
*ボナミア(Bonamia exitosa:Bonamia ostrea)とマルテイリア(Marteilia refringens)
フラット・オイスターに寄生する原虫。
*海産プラナリアの平虫類(Acotylea)。 
ナツドマリヒラムシ(Pseudostylochus intermedius)、 
ニセスチロヒラムシ(Pseudostylochus obscurus)

(食材研究家:しらす・さぶろう:王壮快

2003年10月初版
2004.年4月改訂版
2010年5月改定版
2013年12月改定版(記事中には2003年現在のものがあります)

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