(まえがき)
学生スポーツに蔓延する「鉄剤注射」の危険性
非アルコール性脂肪性肝炎(ナッシュ:NASH)とは
血中酸素供給量は赤血球のヘモグロビンを構成する鉄分を別途供給することにより
増やすことが出来ます。
血中酸素供給量増は持久力の必要なマラソンなどのタイムを短縮できることが
知られていますが、肝臓、腎臓に蓄積していく鉄分の有害性は
命に関わるほど危険です。
2018年12月中旬になり、学生駅伝のランナーに半強制的に貧血治療用の医薬品である
「鉄剤注射」を強いる指導者や医師が、スポーツドクターらに再警告され
マスコミ(読売新聞)の話題となりました。
学校の生徒募集促進や指導者ら自身の地位向上のためにNHKテレビなどで全国放送される
「駅伝」「陸上競技」などは宣伝効果が抜群で利用価値の高いスポーツ。
とはいえ、若いアスリートに減量を強い、栄養失調状態に追い打ちをかけるように高単位の「鉄剤注射」を強いることは肝臓、腎臓に大きなダメージを与え、早死にを促進する行為といえます。
すでに2016年に日本陸上競技連盟が「健康を害する行為」として警告をしており、朝日新聞がドーピング類似行為として報道した時にはロハスケでもこの記事の初版のテーマとしています。
鉄分は生体に必須な重要ミネラルですが、1990年代の終わりごろから
運動量の激しいアスリートを除けば、成人男子や中高年の男女で
不足する人は少ないといわれるようになりました。
むしろ2005年ごろよりは不足というより過剰となっているミネラルの最右翼。
過剰な鉄分が腎臓疾患、肝臓障害、糖尿病、動脈硬化の原因となり寿命を縮めること、
またビタミンCがその鉄分の吸収を促進することなどが明らかになっています。
鉄分過剰蓄積の有害性は長い間議論が続きましたが2000年以降には
議論に決着がついているといえます。
1.鉄分は不足がちで、含有量の多い食品をたくさん食べるべき?
世間一般では「鉄」というと昨今でも不足栄養素の代表のイメージ。
それは食材や栄養剤販売関係者が意図的に作り上げているイメージとも
言えますが、日本では人口の約23%程度の生殖可能年齢の女性に限定された話で
(例外としてスポーツ選手ほか)、こと男性に至っては圧倒的に鉄過剰状態。
それでも一方的なイメージを作り上げるTVでは若い女性栄養士が栄養たっぷり
「鉄分豊富な」食事を紹介し、家庭においてはメディアに感化された若奥様が鉄分豊富な
食事を愛情込めて作り、旦那様はそれを食べる。
女性と異なり男性は怪我や胃潰瘍でもない限り出血しませんから鉄は体内に貯留する一方です。
2.鉄分の平均的な蓄積量とは?
鉄分の体内蓄積量は成人男子で総量が6-8グラム。
必要量が赤血球(ヘモグロビン)、筋肉(ミオグロビン)、肝臓(フェリチン)等に
蓄積されています。
カッコ内は組織に蓄積する鉄分結合物質の名称。
3.鉄分過剰にはどのような害があるのでしょうか?
鉄分過剰がC型肝炎を悪化させることが、専門家間で広く認知されています。
他にも過剰が動脈硬化、活性酸素の活発化、発癌などの原因ともなります。
鉄分過剰は*非アルコール性脂肪性肝炎(次項)を悪化させますが、
脂肪代謝を損なう働きは、俗にいうメタボリック症候群促進へも一直線。
閉経後女性の脂肪肝発症、糖尿病発症と密接に関連している可能性も
指摘されています。
近年、瀉血療法と合わせて食事中の鉄を7~8mg/日以下に抑えた鉄制限食を
摂取することにより、C型慢性肝炎の改善が見られるとの報告があります。
スポーツ目的の鉄材注射は40㎎の高単位医薬品が用いられるようですが、120㎎を使用する
医師もいるといわれます。
医薬品には副作用として肝臓、腎臓へのダメージは表記されていません。
医薬品ならば当たり前というスタンスなのでしょう。
4.鉄分過剰による非アルコール性脂肪性肝炎(ナッシュ:NASH)とは
ナッシュはインシュリン抵抗性肝臓鉄過剰蓄積(IR-HIO)
(insulin resistance-associated hepatic iron overload)とも呼ばれます。
お酒が原因と言われた脂肪肝(alcoholic steatohepatitis:アッシュ)と異なり、
インシュリン抵抗性を基とする代謝異常により、脂質が肝臓に蓄積。
慢性肝炎、肝臓の繊維化進行、肝硬変、肝臓癌へ発展するといわれる脂肪肝炎。
ナッシュ(NASH)は非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis)の略語。
5.ナッシュ(NASH)は何時ごろから話題となったのですか?
かねてより米国ではウィルス性肝炎が少ない割に肝炎、肝硬変が多いことが問題となっていました。
お酒による脂肪肝炎とも異なる肝炎の原因がナッシュ(非アルコール性脂肪性肝炎)ではないか?
と認識され始めたのは1998年ごろといわれます。
2000年に権威ある学会誌ランセット(Lancet)に
「Insulin resistance iron and the liver(インシュリン抵抗性、鉄分、肝臓)」という
文献が掲載され、確定的なインパクトを与えました。
この論文発表により鉄分の過剰蓄積が糖尿、肝硬変の原因となることが決定的ともなりました。
6.フェリチン値の異常でナッシュを診察できますか?
ナッシュ(非アルコール性脂肪性肝炎)を識別するのは大変難しいといわれます。
簡易測定法はありませんが、フェリチン値の異常が識別の目安になります。
フェリチンは肝臓、膵臓、筋肉、骨髄などに存在するたんぱく質(アポフェリチン)と
鉄分(Fe3+)が結合した物質。
フェリチンは鉄分(Fe3+)を含有貯蔵していますので、
鉄分の蓄積状況が読めるわけです。
7.適正なフェリチン値とは
通常は男性15-220ng/ml、女性10-80ng/mlといわれます。
これ以上の状態はヘモジデリン(hemosiderin)とよばれます。
殆どの、日本人男性においてフェリチン値は150ng/mlを超えており、300 overの方も
沢山おられます。
特に、晩酌をされる中高年の男性に顕著で多くの方が耐糖能障害、高血圧、
内臓脂肪過多~脂肪肝が認められます。
この中に脂肪性肝炎が隠れているのですが、確定診断には肝生検が必要で、
安易には施行出来ませんから、単純なアルコール性脂肪肝との鑑別に
難渋しています。
また、閉経後の女性の中にも同様の方が目立って増えて来ています。
食生活が欧米化したことに加え、いつまでも鉄=不足のイメージが抜けないのが
災いしているようです。
フェリチン値は造血系統のガン(白血病、骨髄ガンなど)、肝臓ガン、すい臓がん、
大腸がんなどで増加しますので、ガン、悪性腫瘍のマーカーともなっています。
8.鉄分過剰と腎臓病、糖尿病、心臓血管病などとは関連があるのでしょうか?
以前からですが、日本人の場合、欧米と比べ肥満が軽度~痩せ型にも拘わらず
糖尿病を発病するという特徴があるといわれて来ましたが、鉄過剰はその一因と
考えて間違いないものと思われます。
ただし、不思議なことに、これら鉄過剰と関連病態については
主にC型肝炎と脂肪性肝炎については広く認識されるようになりましたが、
耐糖能障害は無論のこと、腎不全、高血圧をはじめとする心血管病変等との
関わりに対しては、専門性の壁なのか、2005年ごろまでは殆ど
認知されていませんでした。
9.肥満と非アルコール性脂肪性肝炎が関係あるのでしょうか?
脂肪組織から分泌される生理活性物質には善玉(*アディポネクチン)、
悪玉(*TNFα)のアディポサイトカインがありますが、肥満により増大した
脂肪細胞は炎症を起こし、悪玉アディポサイトカインであるTNFαを増加させます。
これがナッシュ(非アルコール性脂肪性肝炎)の病状を悪化させるという研究が進んでいます。
*アディポネクチン(adiponectin):インスリン感受性ブドウ糖濃度低下ホルモン
東京大学の山内敏正医師、門脇 孝助教授らがDNAのクローニングに成功しています。
*腫瘍壊死因子(TNF:Tumor Necrosis Factor)
10.鉄分の過剰摂食を防ぐには?
一般的に鉄分は過剰になり難いミネラルです。
大部分の食品の鉄分は植物に多い非ヘム鉄(non heme iron)ですから吸収されにくく、
90%近くが排泄されてしまいます。
また肉類、魚類の鉄分は*ヘム鉄(heme iron)で、吸収されやすいのですが(植物含有非ヘム鉄に較べ10倍以上)、
ふすまのフィチン酸、植物のポリフェノールに吸収阻害されます。
ノギボタニカルではこの観点からもフィチン酸の多い米ぬか油(とらんすげん)、
特有の抗酸化作用を持つポリフェノールのレスベラトロールを推奨しています。
*heme ironはギリシャ語由来で血を意味します。
以下は中野優先生(元東京医科大学助教授)が「鉄の摂り過ぎは、寿命を縮める!」(2005年日経)
の文中で推奨された「鉄分を過剰に蓄積しない方法」です。
a. 赤身の肉は控える
牛肉や豚肉、レバー、マグロなどの赤身の肉に含まれる「ヘム鉄」は腸からの吸収が良い。
また、肉に含まれる成分「ミートファクター」は、植物性食品に含まれる「非ヘム鉄」の
吸収を促す効果もある
b. ビタミンCの摂り過ぎに注意
ビタミンCは身体に良いと言われているが、「非ヘム鉄」の吸収を促す効果がある。
果物、フルーツジュース、サプリメントの取り過ぎに注意
合成ビタミンCは抗酸化作用を期待して美容、老化防止に大量投与することが多い
ビタミンですが相当部分の人には大量投与が役にたたないばかりか、
鉄分蓄積促進などの有害性があることが判明しています。
日本人に多いタイプの遺伝子では動脈硬化の予防に大量の合成ビタミンCを
摂食することが役に立ちません。
糖尿病の人には合成ビタミンCの鉄分還元作用が働いて反って害になります。
c. アルコールは控えめに
アルコールは肝臓に鉄を押し込む効果があり、「貯蔵鉄」を増やす ことになる。
特にC型慢性肝炎の人は注意が必要
d. 穀物は全粒タイプ
玄米や大麦、ライ麦などの全粒穀物は、フィチン酸を含んでおり、
このフィチン酸が鉄と結合して、体内への吸収を妨げる
e. 運動、献血をする
鉄は汗から排泄される。定期的に運動し、汗をかくことで、鉄を減らす。
献血は、てっとり早い鉄の放出手段でもある
初版:2013/09/27
改訂版:2018/12/29