フランス人に心臓血管疾患が少ないのは赤ワインとともに好まれるニンニク.
中でも好まれているのがロゼや紫のアントシアニン含有品種.
紫玉ねぎ、紫キャベツとともにその健康効果を知るフランス人に愛されています.
Cadours (紫ニンニク:l’Ail Violet の町)
- 1. フランスとニンニク(大蒜)
- 2. フランスのにんにく生産地域
- 3. フランスの主要にんにく産地と特産のニンニク(名前は俗称)
- 4. ノール・パ・ド・カレ地方(Nord-Pas de Calais)のニンニク産地
- 5. アルルー(Arleux)のにんにく祭り(La Foire l’ail d’Arleux)
- 6. にんにく祭りの本家はフランス
- 7. ブルターニュ地方(Bretagne)のにんにく産地
- 8. ミディ・ピレネー地方(Midi-Pyrenees)のニンニク産地
- 9. ロートレックのにんにく祭り(La fête de l’ail rose de Lautrec)
- 10 カドゥールのにんにく祭り(La fête de l’Ail de Cadours)
- 11. アキテーヌ地方(Aquitaine)のアイエ(aillet)
- 12. オーベルニュ地方(Auvergne)のニンニク産地
- 13. プロヴァンス(Provence)とローヌ・アルプ地方(Rhone Alpes)の
ニンニク産地(マルセーユのにんにく祭り) - 14. 輸出入量が多いフランスのニンニク
1. フランスとニンニク(大蒜)
にんにく(大蒜:Allium sativum)はフランスでは古くから栽培され、
ガリア(ガロ)・ローマン(Gallo- Romaine)時代からの栽培記録があるようです。
フランスではAil(アュ、アイュ、アイユ)と呼ばれており玉葱類に次ぐ人気食材。
にんにくは唐辛子、とうもろこし、豆類と異なり新大陸の発見により
諸国に広められたものでありません。
原種といわれるAllium longicusは、中央アジアやヨーロッパ南部で4000年の栽培の
歴史があるといわれ、研究者によればヒポクラテスが紀元前430年に記述した記録もあります。
フランスの栽培農家は15,000軒前後、6,000ヘクタールの畑で、ピークには
年間46,000トン(1996年)くらいの生産量がありましたが、現在は漸減しています。
世界の総生産量は約2,500万トン(2012年).中国が40%以上を占めるといわれますが
信頼できる数字かどうかは不明ですので2,000万トンくらいと推量.
フランスの生産量は中国の150分の1(300分の1?)、韓国の10分の1で、
世界のランクから見ればベスト10にも入りませんが、全土で料理やソースの
アイェ(aillée)、アイオリ(aïoli)、ブイヤベースに欠かせないルイユ(rouille )などで
愛用されており、ニンニクスープも南西部のLe tourinなど
多様な形で各地にあります。
フランス人の一人当たり年間消費量は、10キロ/年を消費する韓国には及びませんが、
日本人の3倍は消費しています。(日本の生産量は約21,000トン/2012年.出荷は70%弱)
2. フランスのにんにく生産地域
フランスはヨーロッパの農業大国。農地は全国に広がります。
にんにくはアキテーヌ、ミディ・ピレネー、オーベルニュ、ローヌ・アルプ、
プロバンスなど南西部、中部、南部地方でフランス全体の80%が生産され、
北部のフレンチ・フランダース、ブルターニュ地方がこれに続く主要生産地です。
(参考)*最近の青森県の生産量は日本全体の70%弱で約13,400トン(2010年)
アキテーヌからミディ・ピレネーに拡がる大地は、
特に南西大盆地(le Bassin du Grand Sud Ouest)と呼ばれる大農業地帯ですが、
ニンニクはこの地帯だけでフランス全体の60%を生産しています。
南西大盆地はボルドー、メドックなどの高級ワイン、ロックフォールなどのチーズ、
各種リキュール類など著名な食材の多くを産する地帯。
3. フランスの主要にんにく産地と特産のニンニク(名前は俗称)
フランスで売られる主要ニンニクは学名的には2種類ですが、変異株、品種改良種が
多数あり、同じ種でも栽培地により風味や外見が微妙に異なり
一般的には産地名で呼ばれます。
紫色のアントシアニンの健康効果を知るフランス人は玉ねぎ同様に
Ail violet やAil roseを好みます。
フランスの代表的なニンニク(アラス市広報)
アルルー(ノール・パ・ド・カレ地方)Ail fume d’Arleux (上の図左下)
ロートレック(ミディ・ピレネー地方)Ail rose de Lautrec (上の図左上)
ロマ―ニュ(ミディ・ピレネー地方)Ail blanc de Lomagne.(上の図右上)
カドゥール(ミディ・ピレネー地方)Ail violet de Cadours .(上の図右下)
シェーゥエ(シェールウェィ)(ブルターニュ地方)Ail de Cherrueix
オーベルニュ(オーベルニュ地方)Ail d’Auvergne
ドローム(ローヌ・アルプ地方)Ail de la Drome。
プロヴァンス(プロヴァンス地方)Ail de Provence
4. ノール・パ・ド・カレ地方(Nord-Pas de Calais)のニンニク産地
北部のノール・パ・ド・カレ地方のニンニクは
春にんにく(l’ail de printemps)とも呼ばれます。
春にんにく種の産地には二つの地域があります。
一つはアルルー(Arleux)に代表されるデューエ地域(Douaisis)の200ヘクタール、
もう一つがロコン(Locon)に代表されるボスヌ(Béthune)地域の100ヘクタール。
この地方の春にんにく栽培はフランス全体から見れば、
生産量が6.5%の3,000トン前後と多くはありませんが、
ガリア(ガロ)・ローマン(Gallo- Romaine)時代からの古い歴史を持ち、
フランス人や近隣諸国の人々にとってなじみの深いにんにくです。
アルルーのニンニクはコールド・スモーク(冷煙)で10日間燻製した
ライユ・フュメ・ダルル(L’Ail Fumé d’Arleux)として広く知られています。
アルルーはノール・パ・ド・カレの県庁所在地であるアラス(Arras)の北東50キロ、
北部交通の要であるリール(Lille)からは南へ40キロの立地。
ロコンはアラスの北60キロくらいボスヌ(Béthune)の近くです。
ベルギーに隣接したフレンチ・フランダースとも呼ばれる地域で、
隣国のベルギー、ルクセンブルグ、イギリスへの農産物輸出が盛ん。
県庁所在地のアラスはローマ時代に栄えた都市で、ネメタクム (Nemetacum)や、
ネメトセナ (Nemetocenna)と呼ばれていました。
この地方は独自の文化圏を形成しており、また、ヨーロッパの人々にとっては
忘れがたい第二次世界大戦の激戦地。
5. アルルー(Arleux)のにんにく祭り(La Foire l’ail d’Arleux)
組織化された「にんにく祭り」としては世界で最も伝統あるのはアルルーのにんにく祭り。
毎年8月の最終週末に開催され、2,200人程度の小さな村には8万人を超える人が集まります。
祭りは土曜の前夜祭(ダンスパーティー)から始まります。翌日はパレードが町を練り歩き、
にんにく女王が選出されます。ディスコ・バンド演奏で盛り上がる広場では、蚤の市、
屋台が設けられ、無料のにんにくスープ(Soupe al ail)が振舞われます。
6. にんにく祭りの本家はフランス
にんにくの多くは秋に植えられ、翌年の初夏に収穫されます。収穫後は乾燥させて、
30%程度の水分を除去してから出荷されますが、その間が農園にとって楽しい休日となります。
この時期にフランスでは各地でニンニクの収穫祭が催されますが、
最も有名なのが「にんにくの首都」(Capitale de l’Ail)と呼ばれるアルルー(Arleux)の
にんにく祭り。
カリフォルニア、サンタクララ郡のギルロイ(Gilroy)が「世界のにんにくの首都」を
自称して四半世紀になりますが、ギルロイのにんにく祭り(Gilroy Garlic Festival)は
アルルーの祭りを模倣したもので、1979年が最初。
(*アルルーはプロヴァンスのアルル(Arles)とは異なります)
7. ブルターニュ地方(Bretagne)のにんにく産地
フランス北部のもう一つの主要産地はブルターニュ地方の
シェーゥエ(シェールウェィ:Cherrueix)。
サン・マロとモンサンミッシェルの中間くらいに立地。
栽培されているのはヴァイオレット、ホワイト、ルージュの三種類のにんにく。
年間1,000トン前後の生産量といわれています。
産品保護地域指定のIGP規格(l’Indication Géographique Protégée)を
得た高品質産品が自慢。
シェーゥエ(シェールウェィ)のにんにく祭り(Fête de l’Ail de Cherrueix)が
組織化されたのは比較的新しい1999年からで、毎年7月に開催されます。
8. ミディ・ピレネー地方(Midi-Pyrenees)のニンニク産地
アルルーの春にんにくと並んで著名なのが、ミディ・ピレネー地方産に分類される
ロートレック(Lautrec)の秋にんにく(L’ail d’automne)と、タルン(タルヌ)県(Tarn)、
オート・ガロンヌ県(Haute-Garonne)の白にんにく(Ail blanc de Lomagne)。
ミディ・ピレネー地方の生産量はフランス総生産の8.7%を占める4,000トン前後(1996年)、
このころの栽培農家数は約380軒、1,000ヘクタールの栽培面積を持ちますが、
調査年により変動が大きいようです。
ロートレックの秋にんにく(L’ail d’automne)は薄皮がローズ色のために
赤にんにく(アイユ・ローゼ:ail rose)とも呼ばれ、フランスでは
「調味料の王子(Prince des Condiments)」と尊称する人さえいる著名な種類。
南部、南西部の家庭料理(シチュウ)のカスレ(Cassoulet)に欠かせない種類のにんにくです。
産地ではブランド・ニンニクとして品質管理がされ、
1966年に原産地と品質を保証するラベル・ルージュ(Label Rouge)を与えられたことを
誇りにしています(Label Rouge de L’Ail Rose de Lautrec)。
*農産物ですから土壌、気候により同一学名でも風味、外見が大きく変わり、
他地域との交雑、変異株、品種改良によって産地ごとに様々な呼び名があります.
便宜上品種、種類と呼びますが学問的には近似的な2種類.
トウガラシ、トウモロコシを参考にしてください.
ロートレックは持ちが良い、香りが高い、甘い、味が良いとされていますが、
白にんにく(Ail blanc de Lomagne)にも同様な品質があり、評価は様々。
健康ポリフェノールのアントシアニンを評価する人はロートレックを好みます。
アントシアニンはほんの微量でも多様な栄養成分を持つニンニクの効能を
高めていると信じられています。
フランスでは高級品扱いですが、物価比では青森県産にんにくの半値以下です
(最近の青森県産福地6片の大玉は小売で3,000円~4,500円/キロはします)。
Ail blanc de Lomagne
ロートレックの赤ニンニクに対して、ミディ・ピレネー地方の白にんにく(写真上)は
タルン(タルヌ)県(県都アルビ:Albi)、ガロンヌ県(県都トゥールース:Toulouse)を
主産地とする「ロマーニュの白にんにく:Ail blanc de Lomagne」が著名。
伝統的にはJolimont 種、Corail種が栽培されていますが、
最近ではローヌ・アルプ地方のドローム(Drôme )で栽培が盛んなThermidrôme 種と
Messidrôme種が多いといわれます。
ブランド名を明記しないフランス産は11.80€(2016年4月カルフール大西洋岸)
9. ロートレックのにんにく祭り(La fête de l’ail rose de Lautrec)
ロートレックのにんにく祭りがアルルのような形になったのは比較的新しく、
毎年8月の最初の金曜に開催されます。
2006年は8月4日に開催されましたが、赤ラベル(Label Rouge)を得てから40周年目にあたり、
盛大に催されました。
画家のロートレック(Henri Toulouse-Lautrec)はミディ・ピレネー地方の
アルビ(Albi)(タルヌ県:Tarn)で生まれましたが、そこから北に30キロくらいのところに
プロヴァンス地方の小さな町、ロートレック(Lautrec)があります。
アルビ(Albi)やトゥールース(Toulouse)はローマン・カトリックの
カタリ派(アルビジョワ派)の本拠地で、現在でもローマ系の独自の文化を持ちます。
カタリ派は映画「ダヴィンチ・コード」でテーマとなり、日本でも有名になりましたが、
カタリ派とヴァチカンの派遣した十字軍の戦いはフランス国家が形成された過程で記録される
歴史的大事件でした。
10 カドゥールのにんにく祭り(La fête de l’Ail de Cadours)
Ail violet de Cadours
カドゥール(Cadours)はミディ・ピレネー地方ガロンヌ県(Haute-Garonne)の
トゥールースから北西に40キロに位置します。
古くから紫にんにく(l’Ail Violet du Paus de Cadours)の産地で
年間800トンくらいを生産。
1977年からにんにく祭りを組織的に開催しています。
フランスではロートレックと並び栄養価が特に高いと評価される品種。
11. アキテーヌ地方(Aquitaine)のアイエ(aillet)
アイエはニンニクの種類ではありませんが、ニンニクの若芽を食するものです。
日本ではラッキョウの若芽や細ねぎなど、ねぎ類を生食する風習がありますが、
フランスでもサラダやワインのお供などにします。
アイエはアキテーヌが最も有名な産地です。
12. オーベルニュ地方(Auvergne)のニンニク産地
オーベルニュ地方ピュイ・ド・ドーム(Puy-de-Dôme)県の
アリエ川の渓谷地帯(Val d’Allier)に150ヘクタールのニンニク畑が拡がり、
1000トン(2000年)の生産量があります。これはフランスの総生産量の3%くらい。
ニンニク産地(Ail d’Auvergne)のアリエ川渓谷は野鳥の種類が豊富なことでも
知られる地域で、オーベルニュのジビエ料理(gibier)(鳥獣料理)の
レストラン集積はフランス有数。
またピュイ・ド・ドーム県は温泉が豊富で、ビシー(Vichy)、
ヴォルビック(Volvic)などの町や村は温泉治療や飲料鉱泉水で著名。
パリから列車か車で3時間。
中央山岳地帯の裾野に拡がるアリエ川沿いの豊かな平原はリマーニュ(Limagne)とよばれ、
この地域の交通の要所であるクレモンフェラン(Clermond-Ferrand)から車で30分くらいで
食の都のリヨン。
パリへ食材を供給する農産地帯として知られています。
オーベルニュでにんにくの首都といわれるのはビロン(Billom)。
中世の美しい町として知られ、毎年8月の第二週末に、ニンニクやワインの
お祭りが開催されますが、もう一つの特産である「骨董」の市が併設されます。
この地域のにんにく(Ail d’Auvergne)は原種に見られる薄皮が赤いニンニク。
10-18くらいの房を持ち1月から3月にかけて植えられます。
比較的大型種でエキストラクラス(45ミリ以上)の大きさがあります。
胡椒とニンニクで味付けしたチーズのガプロン(Gaperon)や
オーベルニュ・プロヴァンス料理のアイゴ・ブリド・スープ (aïgo boulido)には
この地方のにんにくが使用されています。
13. プロヴァンス(Provence)とローヌ・アルプ地方(Rhone Alpes)の
ニンニク産地(マルセーユのにんにく祭り)
プロヴァンスとローヌ・アルプ地方ではプロヴァンスの
アヴィニヨン(Avignon:ヴォークリューズ県)からローヌ・アルプ地方の
ドローム県(Drome)にかけて、14箇所の生産地域があり、
フランス全体の生産量の20%、約9,000トンが生産されています。
赤、ピンク(バイオレット)、白など各種のニンニクが生産されていますが、
120-180グラムはある伝統の大型白ニンニク、Thermidrôme 種と
Messidrôme種が80%といわれます。
そのほかにはミディ・ピレネーで作られている
Germidor, Jolimont,なども栽培されており、近年になり品種は様々。
ニンニク祭りは7月に行なわれるマルセーユの「にんにくと陶磁器祭り」
(Foire à l’Aïl et aux Taraïettes)が有名。
毎年6月15日から7月14日まで一ヶ月間開催されます。
14. 輸出入量が多いフランスのニンニク
輸入はスペイン、アルゼンチンなどから20,000トン位ですが、
近年は輸入が急増しているようです。
輸出はイギリス、イタリア、スイス、スペイン、ルクセンブルグ、ベルギーなどに
平均で約15,000トン。
スペインはヨーロッパ最大の生産地で220,000トン/年前後の生産量があります。
スペイン産は11.80€/kg(2016年4月カルフール大西洋岸店)
アルゼンチン産は12.86€/kg(2016年4月カルフール大西洋岸店)
(カルフールではこれが一番個数別パックの種類が多い)
スペイン産
キロ5.98ユーロ
左図は輸入.右図は輸出.」.(フランス政府広報)
Autreは「その他」. les Pays-Bas は「オランダ」
Allemagneは「イギリス」.
生鮮食材研究家:しらす・さぶろう