旧フランス領インドシナの食文化(3): ヴェトナムの蓮(はす)食文化は不眠症、消化器疾患に著効?

 

蓮の花(lotus:Nelumbo lutea または Nelumbo nucifera
食用にされる蓮(ハス)はロータス(英名:Lotus)と呼ばれます.
種類は2種が知られています

ロータスの大きな葉や花にはイソキノリン・アルカロイドが豊富

(写真上下)ベトナム・ホーチミン市郊外の水連(water lilly:NymphaeaNympheaceae)
一般的に水連(スイレン)と呼ばれるものは観賞用.70種類はあります.

ヴェトナムの食用蓮(Nelumbo nucifera:Lotus)はインド原産といわれ
インド同様にヴェトナムでも国花となっています。
鍋料理が盛んなヴェトナム南部で花や茎、花弁は高級鍋用野菜。
実(み)は生も食されますが乾燥品が主流。通年の食材として普及しています。
乾燥させることでアルカロイドの毒性が失われるかどうかは不明.

(写真上)べトナム南部とカンボジアとの国境は蓮(花托)の売り子が名物風景。
メコン川フェリーで出会った欧米人(ロシア?)は売り子から買ったハスの実を
生で食べていました。
香り高い生食ができるのは実だけのようですが、アルカロイドの危険性もあり、
慣れない都会人にはお薦めできません.

しらす・さぶろうの日本人がんばれ!観光立国編
https://nogibota.com/archives/5085

 

ベトナム南部に根付いているハス食文化。アセアン諸国では特徴的です。
蓮は香りが飛びやすく、美味しさについては議論がありますが、
葉、花、花弁、実、茎、根茎まで全ての部位が現地では食用。
実(み)は滋養強壮、消化器系の漢方生薬(蓮肉)として歴史があります。
薬草大辞典によれば実(み)に含まれるネルンビン、ロツジン、アノナイン、リインジニン、
プロヌチフェリンなど10種類以上のイソキノリン・アルカロイドが薬効を示すといわれますが、
蓮の部位別の薬効や毒性を詳しく調べた報告は2014年現在では見当たりません。
(最近になり資金的に余裕が出てきた中国政府が具体的な研究を始めています)

疫学的とまでは言えませんが、インド、中国などで東洋医学的に知られている薬効は
日本人になじみのあるレンコン(蓮根)が不眠症。根茎が二日酔い。
ベトナム、カンボジアで愛好者の多い種や花は脾臓、すい臓など消化器。
野菜として使用されている茎は高血圧や止血に良いといわれます。
いずれにせよ蓮の葉茶や実のお菓子などが美容、ダイエットに良いとの
根拠は、知る限りありません。
広く知られる消化器系統への薬効はイソキノリン・アルカロイドが持つ下剤効果。
神経系統への薬効は何らかのポリフェノールと推測できます。

(写真上)蓮の実の炊き込みサフランライス.(ホーチミン市3区).

(写真上)ハスの実と松の実を混ぜた美味しいチャーハン(ホーチミン市1区).
玄米と白米を二種類混合使用しているのか、独特の風味がある.

旧フランス領インドシナは現在のラオス、カンボジア、ベトナムの三国。
各国ともに国の歴史は戦乱の歴史。現在でも国境紛争、内乱で休まる暇のない緊張感。
それでも民はしたたか、貧しくとも食文化は豊かさを保っています。
世界中の料理、食材が相互乗り入れ、フュージョン、創作が当たり前になった現在、
インドシナ半島の料理をベトナム料理、カンボジア料理、タイ料理と国別に分けて呼ぶことは
ナンセンスですが、マイナーな食材、嗜好性の強い食材には地域性があります。
各地には貧しさゆえの食材もいまだに健在(?)。
カンボジア、ヴェトナムにはそれらを試食するグルメの楽しみがあります。

(写真上左)中央が生の蓮の実.右は天日干しの蓮の実(ニャチャン:ヴェトナム).
炊き込みご飯、甘納豆、粉砕した粉で作るお菓子など、実(み)の用途が最も多様ですが
観光客目当ての加工食品は信頼できるものばかりではありません.

写真上)生鮮市場のレンコン(蓮根)は価格が高い(日本でも)こともあり、
大衆市場では花茎ほど普及していません.
蓮根には危険なアルカロイドがほとんど無く、安全性が高い部位といえます.(ニャチャン)

蓮の実の次に普及しているのが花茎と鍋料理(ラウ)に欠かせない花弁の
スライス(ホーチミン市).
花茎は3月ごろにヴェトナム、カンボジア南部に大量に出回る.
蓮の花と花茎は高級鍋料理の具材ともなりますがアルカロイドの多い部位ですから
過食は禁物.

https://nogibota.com/archives/1228

雷魚を捌いて包装するのは蓮(ハス)の葉(プノンペン:カンボジア)

ホーチミン市で売られる花や実の加工食品.

蓮(ハス)以外はアーティチョーク、ドラゴン・フラワーが多い.
蓮のお茶、甘納豆など加工食品で添加物フリーを謳う商品には
香りがほとんどないのが難点.
香りのポリフェノールはすぐ抜けてしまうようで、蓮茶、菓子は人工香料添加が大部分。
香料添加なしのお茶、菓子に蓮の香りはほとんどありませんが、効能が無いということは
安全性が高いということ.皮肉な結果です。

(生鮮食材研究家:しらす・さぶろう)
初版:2014年3月
改訂版:2016年7月

 

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