米国が警察官を辞めた世界は、ウクライナであれ、南シナ海であれ、世界の秩序があちこちで崩壊しておりますが、なかでも中東における国際テロは、アルカイーダから派生したISIS(イラク・シリアのイスラム国)というイスラム教スンニ派の過激武装勢力によるイラク北西部制圧とバグダッド進撃で、ついに米政府要員、大使館、領事館が脅かされるに至りました。
しびれを切らした米議会は、これまで軍事行動を頑なに拒絶してきたオバマを焚き付け、ついに限定的とはいえ空爆実施に踏み切らせることとなりました。
イスラエルによるガザ空爆も目下停戦中でハマスとの折衝下にあると言えども、先行きの和平は期待できそうもありません。これも、パレスチナ問題から手を引いたオバマ外交に痺れを切らしたイスラエルの自衛戦に端を発しており、戦乱の中東ドミノ倒しは、ますます広がりそうな雲行きです。
ISISによる国境を越えた支配地域の拡大策と勢力膨張は、シリア、イランに跨るだけに留まらず、これまで比較的に安定していたヨルダン、レバノンなど、キリスト教徒も多く住む諸国にも押し寄せ、“肥沃な三日月地帯”と言われる古代メソポタミア地域一帯の液状化を加速させているようです。
オバマ大統領が軍事よりも対話外交を重視するとの外交方針を発表したのを尻目に、プーチンロシアも、習中国も国境を塗り替えることに躊躇しなくなった以上、戦乱の中東がドミノ倒しに向かうのも宣なるかなと思わざるを得ません。長期的な大戦略に基づく原則なきオバマ外交の場当たり戦術では、ボスニア内戦を想起させるような、ISISのイラク大都市分割占拠、民族浄化が止められないと考えられます。イラクにおける宗派対立を納める期待を裏切って、一層混乱を深めるだけのマリキ首相に代わって、同じシーア派のアバディがアメリカの介入も受けて新首相候補となりましたが、ISISの進撃を跳ね返すような挙国一致体制を敷くだけの実力を持ち合わせているとは思えません。ましてや、マリキ首相がやっと退陣表明をしましたが、これまで内外の退陣圧力に抗して権力にしがみつき、特殊部隊が不穏な動きを見せて来ただけに、首相がアバディに代わっても、混乱はすんなり収まりそうもありません。
そもそも民主主義が根付いたこともない複雑怪奇な国史を持つイラクにおいて、一旦バラバラにしてしまった多部族と多宗派を結び付けるという超難事業外交を拒絶したオバマ政権は、リビアやシリアも同様、ただ傍観するのみで、一切の修復作業を放棄して来たのです。
オバマ外交を一層迷走させているのが、ケリー国務長官で、すでにアジア外交でも、中国や韓国の強かさに尻尾を巻いては、何度も我が国の足を引っ張っては、多大の迷惑を被ってきた通りですが、今般またも中東無知に発する大罪を重ねているようです。イラク情勢に関して「イランと話し合う用意がある」などと不用意な発言を遣らかしてしまい、サウジアラビアやイスラエルを激怒させるなど、外交のイロハも弁えない幼児性を露見しております。
今や中東におけるテロ集団とテロ件数は記録破りの増加ぶりで、中東諸民族・諸宗派を支離滅裂にしてしまっているのが、オバマ政権の汚点であり、秋の中間選挙を前にして,上院の過半数を失う危機からも、内政に邁進すべき時にありながら外交の泥沼に嵌ってしまった感があります。
アメリカの「火中の栗を拾いたくない」外交姿勢が、国連の「何もできない。進んで何もやりたくない。」無力化につながり、結果として、国際テロ組織、ロシア、中国、そしてイスラエルと中東諸国のやりたい放題を生んでしまったと言っても過言ではないでしょう。
そもそも、世界最古の文明をもつ中東は、シュメール、バビロニア、アッシリア、ヒッタイトなど、数々の民族による多神教文化と強大なパルティア国を育んできた歴史と、一神教のローマやユダヤの進出、そしてウマイア、オスマンといったイスラム帝国が後に続いて、十字軍や英仏等による近世の植民地化と、世界大戦後の独立と言った千変万化の歴史を経て、毀誉褒貶を伴う民族・宗教・文化の混淆と複雑さを生み出して来た訳で、歴史も浅い米国の政治家やジャーナリズムが、単なるイスラム教宗派間の争いと言った表面的単純な口先論理で内政干渉しても上手く行く筈などあり得ません。
ともに五百年の長期古代国家であったローマとパルティア(西アジアで栄えたペルシャ人の祖国)を対比して、ある史家は「ローマは強国だったが愚かさも持っていた」が「パルティアは強かで賢い国であった」と評しております。
資源を巡って、何かと中東に介入して来た欧米の資本家や政治家は、この際中東から一切手を引いて頂き、多神教のルーツを持ち、宗教的イデオロギーが比較的薄い日本が、まず経済提携で今一歩踏み込み、次いで文化交流を深めた上で、最終的には「和を以て尊しと為す」民族融和のお手伝いを買って出ては如何でしょうか。
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