ブドウレスベラトロールが防御する微生物感染症:
ブドウレスベラトロールが免疫細胞強化ペプチドのカテリシジンを活性化
1.カテリシジン(Cathelicidin;CAMP)を活性化させる化合物の探求
研究者らのターゲットは白血球などの免疫細胞内に存在するカテリシジン(Cathelicidin)。
バクテリア感染に対して鍵となる役割を果たし、最前線で侵入を防御する能力を持つヒトの
抗微生物ペプチド(antimicrobial peptides)で、
省略語ではCAMP(Cathelicidin antimicrobial peptides)と呼ばれています。
カテリシジン(Cathelicidin)は当初、白血球の好中球(neutrophils)より分離されましたが
以後多数の細胞より発見されています。
たとえばバクテリア、ウィルス、カビ、ビタミンDホルモン様活性化物質の125-dihydroxyvitaminD
などに活性化された上皮系細胞(エピセリウム細胞:epithelial cells)や
マクロファージ(貪食細胞:macrophages)のリソゾーム(lysosomes:細胞内小器官の一つ)などです。
研究目的はこの抗微生物蛋白質を活性化させる化合物探しでした。
CAMP にはすでに数多くの研究が報告されており、バクテリア感染に対して鍵となる役割を果たす
ことに異論はありません。
研究をリードしたのはオレゴン州立大学生物化学、生物物理学部の
アドリアン・ガンバート(Adrian F. Gombart Ph.D)博士ら.
博士らはカテリシジンがビタミンDとの相乗効果で活性を増すことをすでに見出していましたが
そのほかに効果がある物質を探求するために有望な化合物446種類を調査。
ところが結果的に効果があったのはスチルべノイド(Stilbenoids)化合物の
赤ブドウ・レスベラトロールとその派生物質プテロスチルベン(pterostilbene)でした。
このスチルベノイド・グループがユニークな生理的経路により免疫機能を
発揮するのはヒトと霊長類のみだったのも新たな発見。
2.スチルべノイド(Stilbenoids)とは
スチルべノイド(Stilbenoids)はスチルベン(stilben)の水酸化二次派生物質。
木材の心材などに含有します。
植物がアミノ酸のフェニールアラニン(phenylalanine)から合成するフェニールプロパノイド(Phenylpropanoid)の派生物質で、植物を外敵から護るファイトアレキシン(phytoalexin)と
呼ばれる化合物の一つです。
赤ブドウ・レスベラトロールはこのファイトアレキシン(フィトアレキシン)です。
これまでスチルベン・グループの細胞内における生理活性は未明でしたが、傷や微生物感染の防御効能は
疫学的に知られていました。
カテリシジンは哺乳類への侵入バクテリア防御に対する先天的免疫において重要な働きをすることが、
すでに解明されていますが、スチルベン・グループの働きとは結びついていませんでした。
3.ライナス・ポーリング博士(Linus Carl Pauling:1901年~1994年)
ライナス・ポーリング研究所のライナス・ポーリング博士は日本流にいえば明治生まれ。
分子生物学関連ばかりでなく医学、量子力学、有機無機の化学など幅広い分野の
研究で著名な学者。
20世紀における最も重要な化学者の一人として認められる数少ないノーベル賞複数受賞者です。
思想家としても知られ、核兵器使用反対運動がノーベル平和賞につながりました。
天然の食品化合物を医療に使用することに関してポーリングは先駆者。
ビタミンなど栄養学の研究も数多く、サプリメントの父ともいえる学者です。
博士のこだわりは天然の産物に限ること。
化学合成されたサプリメント素材の効能が、天然とは大きく異なることを見抜いていました。
栄養学に詳しく天然のビタミンD、Cを食品からとりだし、自身でも保健に愛用。
今回の研究主任アドリアン・ガンバート博士はこの伝統を受け継ぎ、天然食品素材より
ターゲットを探求しました。
4.ライナス・ポーリング研究所(Linus Pauling Institute)
1973年にライナス・ポーリング博士らによりカリフォルニアのパロアルト(Palo Alto)に設立。
パロアルトはシリコーン・バレーの中心地。
インテル、フェアーチャイルドなどマイクロエレクトロニクス分野の若い科学者たちが夢を追い続けて
多大な成果を上げました。
ポーリング研究所は博士の死後、1996年に母校のオレゴン州立大学内(Oregon State University)
に移転されました。
微量栄養素(micronutrients)、植物由来の化合物(phytochemicals)などを駆使して慢性疾患の治療、
予防と健康増進をはかる専門機関として世界をリードしています。
得意分野はガン、老化、神経変性など。
博士の意志は今も受け継がれこれまで疫学的に証明されてきた食品群の効能を分子レベルで
立証する研究が進んでいます。
初版:2013/10/18
改訂版:2018/10/10