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ケン幸田の世事・雑学閑談(千思万考)

第十四話:「労働力不足と移民問題を考える」

日本における人口問題は、国家・産業の盛衰や食糧・住宅事情などに応じて、
昔から論議を呼んできました。
総じて戦前は過剰対策としてハワイやブラジル等への移民が奨励され、
戦後の経済成長期は、産業間の移動と農漁村から商工業都市への移住が
比較的機能して来たようです。しかし、ここへ来て少子高齢化の行き着く先を
短絡的に労働力不足に結び付けて、海外から労働者を招くとか、
移民受け入れの法制化の提議まで頓に喧しくなって来つつあり、
聊か冷静さや長期展望施策を欠く尚早論に危惧を覚える次第です。
 
人口構造に関しては、静態・動態両学問を踏まえた人口理論と
政治・経済・科学・文化各界の長期戦略が、総合的観点から
打ち立てられるべきものだと考えます。
総務省や厚生省の提示するほんの一部のデータだけを鵜呑みし、
しかも中身を読み違えているとしか思えないような論点を掲げて騒ぐだけの
ジャーナリズムや、それらに踊らされる一部政治家に、我が国の未来を託して
良いのだろうか。特に「人口動態学」の専門家の提示する多角的観点からの
諸々のデータを殆ど目に出来ないこと、さらにそうしたデータを対比分析した
深みのある論評に出くわしたことがないことに、一抹の危惧を抱いています。
 
まず生産年齢人口(15~64歳)の取り上げ方に大きな誤謬があることを
痛感します。
60年代には、中学卒で就業したものが半数ほども居たでしょうし、
高校卒で就職するものが8割は居たでしょう。つまり15~18歳の就業率は、
ざっくり見ても9割近かったわけです。
ところが、今日この頃、中卒後の高校進学者が90%以上、
高卒後の大学(短大・専門学校含)進学者が60%弱とも言いますから、
同じ15~18歳の就業率は、ざっくり見て約3分の1と激減しているのです。
しかも、通年で55%にも及ぶ大学卒や中退者の内何割かは就職浪人と称して、
海外や遠隔地へ自分探しの旅に出たり、あるいは希望の職種に
出会わないと言いニートや家庭待機の道をゆくものも多く、あるいは、
大学院進学や海外留学などの道を選んで、22歳を過ぎても
就業していない者が急増していると言われています。
 
また、64歳と言う区切りに関しても、60年代頃は、殆どの会社で
55歳とか60歳定年でしたから、当時の実生産年齢は10年分も下
駄をはいている、と言っても過言ではないでしょう。
従って、もし昔と今と、より正確な数字で生産年齢を計算するなら、
60年代は15~57歳でカウントしたものと、現代なら20~67歳で
計算したものを対比すべきだろうかと思われます。
実際、こうして計算してみると、現代の方がかなり大きく、
しかも10~20年後を予測するなら、60年代では女性の
寿退社が多かったのに対し、これからは女性労働力(一説に数百万人の余力と)が
ますます活用されるべきだと思うし、ましてや、健康でもっと
働き続けられる定年退職者が増えているので、
そうした労働力(一説に千万人以上)をもっと活用することで、
生産年齢人口は当面維持できると考えるのが妥当ではないでしょうか。
政治もジャーナリズムも、もっと現実に即した数字を捉えた上で
冷静かつ知的な論議を展開して頂きたいものです。
 
一方、社会文化的な時代の転換にも留意すべきかと思います。
産業別の労働力人口の移動を見ても、60年代が第一次産業から
第二次産業への急激なシフトが起こったのに対し、現代では製造業の
生産性向上や機械化の進展もあって、主要労働力が大きく大三次産業へと
シフト中である(しかも、その過程で産業間の労働者過不足が一時的に生じている)
ことも考慮されるべきでしょう。つまり、人手を食う産業構造の時代から、
製造ラインの自動化やロボットの活用や、IT機器を活用することが進み、
人手が効率化・高度化された時代への大きな流れを読み解いておく必要もあります。
また、人口が減少しても、一人あたりの生産性は落ちないと言う説が有力で、
需要が減っても労働者一人当たりの価値は増し、賃金は安定し続けるとも
言われています。
人口減=消費減の結果、無理な生産増の必要性もなくなり、
労働時間が減少することで逆に十分な余暇が発生し逆に消費を増やす効果も
考えられるのです。
経済成長論者の仮定は、人口が多いと労働賃金を低く抑えることが
出来るとしますが、それは、現代米国の悲劇でもある貧富格差を大きくするだけで、
好ましい未来図ではなさそうです。
少子高齢化を社会保障面から問題視して、短絡的に若者に過大な負担が
かかるとの論議が多いようですが、これも疑問です。
すでに論じてきたように、昔は15歳から(18歳からは大半が)働き納税していたのに、
今は20歳過ぎまで殆ど就労しないわけで負担どころか、
60代でも元気で働き、納税している方々(一部は親)に
(子が)養ってもらっていると言う逆転事象にこそ、注目すべきではないでしょうか。
 
こうした観点からみても医療介護分野とか、オリンピック特需対策などを
やり玉に、安易な外国人労働者受け入れ拡大とか、一足飛びに
大量移民受け入れ制度まで課題にするのは、あまりにも性急であり
近視眼的な愚策であるに止まらず、長期的な観点から日本人の
低賃金化まで強いるどころか、雇用を奪ってしまい、曳いては治安の悪化、
人権問題から風俗文化や社会システムの崩壊に至ると言った国家的損耗を招く
恐れまで、事前の吟味が問われています。
重大な影響が国柄にまで及びそうな政策こそ、国民を挙げての慎重な議論を
重ねてからにしてほしいものです。
東京が地上最大規模の都市でありながら清潔さと治安の良さ、
加えて高い文化・文明力を評価されている裏には、
日本特有の文化的同質性があることを忘れてはなりません。
また、これまで移民を是として経済成長と雇用の弥縫策を講じてきた
欧米先進諸国が、大きな岐路に差し掛かっていること、中でも所得や
教育格差の拡大、貧民人口急増と社会福祉問題、宗教対立、
治安悪化などが国家的命題にまで及んでいるのが現実です。
英独仏に置ける労働市場対策と移民制度見直しが功を奏し始めている一方で、
西伊など南欧の手遅れが社会問題を惹起し、経済まで損傷しているのが目立ちます。
このところ、米国やカナダも新たな規制とか移民法修正が政治課題と
なって来つつあり、例えば語学力の検定や、申請条件を厳しく
改定(投資額・財産保有額を高くし、居住歴を長く)するなど、
移民対策を強化しています。
特にこれまで移民に寛容だったカナダの場合でも、
急増する中国系移民(バンクーバー圏の18%、特に市内は29%が中国系とか)に
対する国内反発が激化し、これまでフリーパスだった投資移民が、
昨年度は申請の8割以上も却下するなど中国人締め出しが表面化し、
論議を呼んでいる始末です。
 
そうした禍根を将来に残すような大罪を犯す前に熟慮断行すべきことが多々あります。少子化の歯止めさえ掛かれば、人口減少の仮定論が崩れますし、
労働生産性を挙げてゆく施策も十分に検討されているように見受けられないし、
ましてや長期育児休暇制度と保育園や介護施設等の整備充実による
女性労働力の活用(一説に7百万人もが実働可能になるとも言われる)、
健康な高齢者の活用(米国では70歳まで雇用義務あり)など
人事労政の抜本改革策も話題に上るだけで具現化の施策が殆ど打たれていないのが
現状ではないでしょうか。
殊に女性の活躍水準が国際的に極めて劣等なランク
(世界経済フォーラムの男女格差報告で136ヶ国中の105位。
管理職女性比率平均が2%前後)にあることを踏まえて、
より柔軟な働き方を許容する方向へ向かうことが急務と言えましょう。
 
企業の生産サービス活力を維持するには、市場のみならず資本も
働き手も海外現場で求めると言う方式も考慮すべきだと考えます。
過去円高対策としての海外進出はかなり進んでいる中、現在のビジネスモデルを
見直し企業自らが変身することで、人口減に備えることも
重要となって来るでしょう。国内の社会システムの改良面からも、
外国に素晴らしい模範事例が増えて来ています。
例えば、スイスの場合、高齢者と障碍者が一緒に暮し、幼少児校、ホテル、
イベント会場等が計画的に配置されている多世代複合型居住コミュニティがあるし、
ドイツにも高齢者と若い世代が趣味を共有したり育児をしたりして、
支え合い交流できる集合住宅がありますが、これらに注目し学ぶべきでしょう。
従来の福祉と言えば、障害者や高齢者の支援の拡充と分配だけが
進められてきましたが、少子化で支え手となるべき世代が減少するなか、
多世代が地域の歴史・風習などを共有し、支え合う住まい方への関心が
世界的に高まっていることにも注目すべきであり、産業型福祉ビジネスの
出番でもあります。
政官民とマスコミ界の早期覚醒を期待切望する次第です。

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