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ケン幸田の世事・雑学閑談(千思万考)

第五十一話:国力の一大要素は文化力 文化力を生かす最大要素は言語力

米国の国際政治学者・サミュエル・ハンチントンの名著「文明の衝突と世界秩序の再創造」には、
国民国家の視点ではなく文明に着目し、世界秩序を分析して、前世紀末における
世界の文明圏を8つ上げ、その一つとして、
日本文明を「一国で成立する、主観的な自己認識を持つ孤立文明」
と取り上げております。
他にも、フィリップ・バグビーの世界九大文明論にも、マシュー・メルコの五大文明論にも、
日本文明が列挙されています。
いずれにしても、日本文明は、他文明とは共通するものが少なく、極めて独自性の高い特殊な
民族文化に由来するものであると定義されています。
その根源的なるものはと言えば、「日本語の特殊性」にあると考えられます。
 
御存知のように、国力の三大要素とは、「軍事力」「経済力」「文化力」であり、
17世紀のウェストファリア条約以降、20世紀前半の第二次世界大戦までは、
国際紛争の最後の外交的解決手段として戦争が許容されてきたので軍事力闘争が続き、
その後経済貿易の自由化を経てグローバル経済競争に突入すると、国境や民族間の
貧富格差の抗争を巡って、局地戦、宗派闘争、テロ事件が頻発するようになっております。
今こそ、世界が取り組むべきは、国境なきソフトパワーの典型である文化力による
フェアーな折衝、相互理解による互助精神の発露ではないでしょうか。
 
もっとも、こうした活動が第一に期待されて居た筈の国連が全く機能を発揮しておりません。
その最大の欠点は、戦勝5か国の持つ拒否権がブレーキとなって、公平なる裁定が行われないこと、
さらには活動経費の負担に問題点が多く、最大の負担比率を持つ米国が、
自国に不利な裁定があるとして、支払いを留保した際、負担第二位の日本が
最大20%強から少なくても11%もの大金(加盟国の最高額)を長期にわたって負担させられながら、
常任理事国にさえなれず、日本の数分の1から精々半分足らずしか拠出金を支払っていない
露中英仏らが、強力な発言力をキープしている不合理、不公平な制度と運用が上げられます。
また、国連公用語として、英語(10億)仏語(1.5億)露語(3億)中国語(13億)
スペイン語(4億)アラビア語(1.5億)の6言語のみが採用されているのに、
母語のもっと多いヒンズー語(7億)や、仏語やアラビア語と差のない日本語、ポルトガル語、
ベンガル語などの採用が拒絶されてきたことにも、納得がゆきません。
 
さもありながら、やはり文化力を発揮し、世界平和への貢献、相互理解には、
言語力の重要性は避けて通れません。
しかも、これまで近代世界を武力で、財力で、文化力で独占的にリードしてきた
白人・キリスト教・米欧語族が、ここへ来て、主として経済力に陰りを見せ、
軍事力でも露中の台頭に怯え、イスラム族の相次ぐテロに脅かされる事態が
常在化し始めて居るのです。
今この状況下で、欧米でもない、アジアでもない、極めてユニークでニュートラルな
文化力(欧米とアジア文明を融合させており、科学技術的には先端を担っている上、
宗教的にも中立的である)を誇り、且つ、それを支える高度な経済力を備えた日本こそ、
混迷するグローバル時代の新たな世界へとリードすべきであろうかと思量致します。
 
日本の文化力が、なぜ世界中で図抜けているかと問われれば、
「人類史を通じて、日本語が唯一、植民化されなかった言語であり、
そこに独自の客観的世界観が凝縮されているから」と答えられるでしょう。
御存知のように、いま世界で一番普及している言語は英語ですが、
それは七つの海を支配した大英帝国が植民地化して来た地域が
60数か国(自治領)にも及んだからです。
同様に、スペイン語やポルトガル語が中南米を席巻し、英語同様に、フランス語にも
植民地化されたアジア(大国のインドと中国南部を含め)へ、アフリカへと、
そしてロシア語がソ連体制下の東欧や中央アジアに広がったのも共通の現象でした。
 
しかしながら我が日本だけは、中世は元寇の役を逃れ、幕末の英(朝廷側)と仏(幕府側)両国の
植民地化狙いを退け、内輪揉めは自らの手で”維新”したことで、中国語(モンゴル語)や
英仏語による置き換えを逃れてきました。
戦後のアメリカ占領下でも、ヘボン式ローマ字化を通じた英語への誘導にも乗せられず、
(換言すれば、識字率の高さと日本語教養力の高度成熟度が壁となって)文化大国としての
日本が二千年来の母語を維持継続できた訳です。
 
ただ、残念なのは、戦後世界最強国となったアメリカの傘(日米安保)の下に入ったおかげで、
冷戦時代に至っても「独自の外交」をせずに済んだため、
(結果として、対ソ=対露や対北朝鮮国交回復が未だにならず、
対中、対韓の国交正常化においても、必ずしも外交的に万全を期したとは
言えない結果に終わり、今に至る紛争の種を残してしまったので)
未だに“言語力、折衝力”に劣る外務省や政治家首脳による日本外交の弱点が
改善されないどころか、益々国益を損ねる事態が続発している次第です。
そこで、喫緊となるのは、語学教育の抜本的な改革ではなかろうかと考えます。
 
大切なのは、英語や中国語で相手側の主観の世界に身を委ねるのではなく、
大国日本の、伝統国家の誇りある日本文化を、先ずしっかりと日本語でわが身のモノとし、
それを英語なり、フランス語やロシア語・中国語で相手側へ、堂々と伝道することで、
初めて対等なる外交が始まることを自覚すべきだと信ずるものです。
言語を必要としない世界では、漫画や浮世絵、工芸品を通じて、世界中の人々が日本人の
文化的感性を感じて、高く評価してくれている訳ですから、奈良平安文芸、安土桃山芸術、
江戸文化、明治近代化文明、そして戦後の技術革新など、日本の歴史や実状、
日本人のモノの考え方、見方などを、もっと外国人にわかりやすく伝えるべきなのです。
そのための日本語であり、その正訳・意訳語としての外国語の習得こそ、
正しい語学教育であるべきではないでしょうか。情報受信型を脱して、
“情報発信型言語力”への転換が急務なのです。
 
ところが、最近我が国の未来を危うくさせるような、とても困った事態が
展開されようとしております。
この夏、文部科学省から、各国立大学長などへ出された通知「国立大学法人等の
組織及び業務全般の見直しについて」と題された中身は、
「人文科学系学部・大学院については、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に
積極的に取り組むように努めること」で、これは大変由々しき問題ではないかと危惧いたします。
早速、学界や経済界から適切な反論が提起され、言論界からも批判論文が相次ぎ、
文部科学省は文章表現の不備を認めると言うことで、
何とか騒動を治めようとしているようですが、実際には、教養課程の一般教育を廃止し、
学部の改廃等に着手しているとの報道がなされております。
 
教養と概念を包含する根本的な知的能力こそ「言語力」であるからして、
普通教育であれ高等教育であれ、「国語教育と外国語教育の重要性」は、
それが実務上に役立つものかどうかというような、表面的、功利的なモノであってはならないし、
単なる促成栽培的な技能教育に終わらせては断じていけないと思います。
国際人である前に、立派な日本人であり続けるには、人間的器量、
すなわち教養としての言語力は必要欠くべからざる素養であると訴求するものです。
 
目下、慰安婦問題とか南京事件とか、中韓の仕掛ける国際的歴史戦で、
我が国は謂れもない屈辱を突き付けられております。これも、戦後の我が国による、
自虐史観蔓延や言語力衰退、外交的失策など、自ら蒔いた種を育ててしまった
国策的大ポカであったと言えます。
やっと、有識者や一部言論界、国際活動家等を通じて、正しい反論攻勢が出始めたことを、
心強く思っております。
しかも、日本を愛する複数の外国人までもが、応援歌を送ってくれ始めております。
今こそ、言語力の最重要性に、多くの国民と政治家、官僚、実業界、特に言論界が覚醒し、
公正な外交と国際交流に尽力すべき時だと信じます。
文部科学省や外務省の猛省を促すと共に、国民一人一人の発信力を強め、
政治の軌道をただし、世界から認知される、文化大国日本のリーダーシップを
確立すべきだと提言する次第です。
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