日本流にいえば「貝売り少女」ですが「貝売り女性」(ニャチャン:ベトナム)
戦争の深い傷跡がいまだに残る市民ですが戦争を知らない若い女性には屈託のない笑みが.
1.旧仏領インドシナに貝類が豊富なわけ
旧仏領インドシナでは淡水系、海水系の食用貝が市場に豊富。種類が豊富なのは国民性もありますが、先進国で見捨てられた種類の貝がいまだに多数売られているからです。
貝類王国日本の都会ではすでにマイナーになった貝類が沢山ありますが、初めてインドシナ旅行に出かけた人や駐在した人が驚くのが通称ジャンボタニシ。
住血吸虫など寄生虫問題もあり、日本やタイ、シンガポールの都会では、ほとんど食べられなくなりましたが、旧仏領インドシナではいまだにどこの市場でも売られており、レストランでも名物料理扱いでメニューに載せられています。
2.ジャンボタニシ(スクミリンゴガイ:Pomacea canaliculata)
(写真上下)通称ジャンボタニシ(スクミリンゴガイ:Pomacea canaliculata)
スクミリンゴ科リンゴ貝属スクミリンゴ貝。
タニシは日本、中国を含めてアジアでは大小含めどこにでも棲息しています。
タニシやカタツムリは日本では一部の地方を除いて食べる人は少なくなりましたが、アジアの農村部などではいまだに重要な蛋白源の一つ。
学者は在来の日本産タニシをタニシ科 (Viviparidae)アフリカヒメタニシ亜科 (Bellamyinae)に分類し
オオタニシ(Bellamya (Cipangopaludina) japonica)、マルタニシ(Cipangopaludina chinensis laeta)
ヒメタニシ(Bellamya (Sinotaia) quadrata histrica)と名付けているようです。
スクミリンゴ貝のジャンボタニシは半世紀近く前に日本に移入されており、多くの養殖業者が参入したそうですから、少なくとも食材としては日本のオオタニシと区別するのはナンセンスでしょう。
学者やマニアックな愛好者は外形や色彩などで分けて種類をふやしていますが、生命力が強いだけに交雑や多様化が進んでいるようです。
貝類は交雑が激しく、また同種でも生息域が異なると別種と思われるくらい多様化します。
いまやジャンボタニシ類はどの先進国でも稲などの農産物を荒らす厄介もの。
欧米人はChinese mystery snailと呼んでアジアの同類はみな同じ扱いです。タニシの殻頂が尖ろうが丸かろうが無頓着。いずれにせよ生息域により味が異なるのですから食材としてならそれで良いでしょう。
(写真上)
市場の売り子がジャンボタニシのむき身を唐辛子ソースに入れて麺の昼食
3.ベトナムではジャンボタニシがエスカルゴ(リンゴマイマイ)の代役も
エスカルゴといえばブルゴーニュが発祥地。ヘリックス・ポマティア(Helix Pomatia)が最初です.
加熱後のヘリックス・ポマティア(Helix Pomatia:Escargot de Bourgogne)
赤ラベル(Label Rouge)で保障されたポマティア・エスカルゴ(Helix Pomatia:Escargot de Bourgogne)
ジャンボタニシはブルゴーニュのエスカルゴ(リンゴマイマイ)にはかなわぬまでも代替品といわれるアフリカマイマイとは食感がそっくり。同科ですから身肉(下記写真)の形も似ています。
ベトナムでエスカルゴが普及しているわけではありませんが、さすが旧フランス領のベトナム。
ジャンボタニシのニンニク、バター、ハーブ仕上げを食べることができます。
これはフランスの代表的なエスカルゴ調理法。
世界中にジャンボタニシの侵入繁殖があるにも関わらず大々的に食している国は限られますが、食文化として進化させているのが旧フランス領インドシナ(ベトナム、カンボジア、ラオス)。フランスのエスカルゴ食文化と無縁ではないのでしょう。
(参考)
旧仏領インドシナのラオスではエスカルゴに限りなく近似のHumphrey’s Land Snail と呼ばれているマレーシア原産のカタツムリ(Hemiplecta humphreysianaまたはHelix humphreysiana Lea) を、フランスのエスカルゴ風に食べているといわれます。(未確認)
マニアを除き、一般的なフランス人はジャンボタニシを食べません。
エスカルゴは寄生虫などの心配がないようコントロールされていますが、ジャンボタニシにはそのような配慮がありません。
珍しい食材が好きな人、好奇心の強いフランス人以外はジャンボタニシを敬遠するのでしょう。味は比較できません。
生物ですから同じものでも生息域によって味が大きく異なり、一概にエスカルゴとタニシの味の比較を云々できないからです。
4.フランスではエスカルゴの品種が明記されます
世界の人たちがエスカルゴと称してアフリカマイマイを食べさせられていると、まことしやかに説明する人たちがいますが、そんなことはありません。
食材の生産地や品種に無関心な日本人と異なり、農業大国、グルメ大国のフランス人は詐称、偽称に敏感。
予算に応じて、表示を理解してからグレードを選びます。
アフリカマイマイの場合はAchatinesとの表示(必須)があります。
ブルゴーニュの本場物(Escargot de Bourgogne)はHelix Pomatia
東欧やトルコなどからの輸入物はHelix Lucorum
小型エスカルゴ (Escargot Gris)はHelix Aspersa
グリ(Gris)は大小でグロ(Gros)、プティ(petit)と分けていますが変種、亜種程度の相違。
通称と学名は一致する必要があり、どちらかが明記されます。
ポマティアのみをエスカルゴと認める日本人はリュコロム(Lucorum)をチャオビエスカルゴ、トルコエスカルゴ、アスペルサ(Aspersa)はグリーン・エスカルゴ、ニワマイマイと呼ぶようです。
ポマティア(Pomatia)も需要低迷により税や生産コストの安い東欧からの輸入が多くなったといわれます。
缶詰に多いアフリカマイマイは、その表示がされており、食べるのは承知の上ですが、本場物のエスカルゴ・ポマティア(Helix Pomatia:Escargot de Bourgogne)も、本来はそれほど高価な食材ではありません。
フランス(ナント)のスーパーでは最良品質赤ラベルの冷凍12個入りパックが3.89ユーロ(500円くらい:2014年4月中旬).1個当たり42円弱。
*日本では三重県で養殖されているようですがポマティアが超高価。
12個が3,750円(1個当たり315円!!!)というレポートがあります。(現地情報は未確認)
アフリカマイマイ(Achatine:Achatina Fullica)の一種.
(キジャールの沼:マレーシア東海岸)
エスカルゴ(リンゴマイマイ)好きは予算がなければアフリカマイマイ(Achatine:Achatina Fullica)
を選び、ベトナム旅行ではジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)も食べるでしょう。
フランスの缶詰やレストランのメニューではエスカルゴの品種を
明記しています。
下の写真はメーカーのパンフレットからですが右端のHelixの表示はあいまいです。
アフリカマイマイではありませんがHelixには価格の異なる3種があるわけですから。
ラベルが英語表示ですからフランス語圏以外に売られるものでしょう。
実際には一番安いHelix Lucorum。通販で12個がUS$15。
L’escargot Achantine a la Bourguignonne
上記表示の冷凍パックで売られているマイマイ.
この表示は「ブルゴーニュ料理用のマイマイ」という意味ですが、Achantineを知らぬ外国人はエスカルゴとブルギニオンの文字で本物と誤解し易い.
12個でUS$9.
(写真上)トルコ・エスカルゴ(Helix Lucorum:ヘリックス・リュコロム)
(ナントで2014年4月17日購入)
ナント(フランス)のスーパーで冷凍の48個入りパックが、6.50ユーロ(845円くらい:2014年4月中旬).1個あたり18円弱。リュコロムはブルゴーニュのポマティアに較べて半値以下。
5.フランスの食用エスカルゴ産業が衰退しつつある?
フランスのエスカルゴは中高年やブルゴーニュ地方の人には根強い人気と郷愁があるようですが、一般的にはエスカルゴをパーティーで出されることも少なくなり、レストランでメニューに載せているのは観光客相手が主のようです。
一般フランス人は食品スーパーのレディーメイドを買ってもレストランでエスカルゴを食することは稀。
素材は輸入が多く、スーパーで安価で売られる食材ですから「ご馳走」ではなく、若い人には「げてもの」と感じられているのかもしれません。
エスカルゴの人気があったのはソースの素晴らしさもあるでしょう。
日本でもアワビ、トコブシ、サザエ、イガイ(ムール)、ツブ、ツメタガイなどの貝類に同じソースを使う料理人が今日では少なくありません。
イガイ(ムール)、ツブ、ツメタガイは単価も安く、エスカルゴより安全性が高いのが人気です。フランスのスーパーではこのニンニク・バターソースだけを販売しています。
(写真上左)湘南地方(鵠沼海岸)のツメタガイ(Glossaulax didyma).
(写真上右)ツメタガイのエスカルゴ風(ガーリック・バターソース仕上げ)
千葉県の企業(写真)が通販しています。1個120円から200円くらい.
ツメタガイは貝を食べる貝.身肉を食べられると二枚貝の殻に小さな穴があいています。
ナント(フランス)で購入したエスカルゴ・ポマティア(Helix Pomatia:Escargot de Bourgogne)
一流の商品には食品表示、料理法、取り扱いが詳細に記載されています。