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世界の健康と食の安全ニュース感染症の海外ニュースと解説

0-157の集団感染が構造的に発生するアメリカに学ぶ

 

食牛王国の米国では構造的にO157集団感染が発生しています。
1998年から2015年までの全米統計では発生件数19,119件。
感染者総数(入院、通院で陽性反応が出た患者のみ)373,531名。
入院数14,681名。死者337名。
最近は予防策が功を奏し、死者は稀になりましたが
1982 年のハンバーガー事件以来、関係者のこれまでの道は険しいものでした。
パッケージ・サラダが急増している日本は米国のこれまでのケースから学ぶ必要が
あるでしょう。

 

1. 予防医学が遅れている日本人の衛生思想

日本は島国よる地の利で感染症の集団発生が少ない国ですが
海外の観光客が短期間に4倍弱ともなった昨今は危険度が急騰しています。.

予防知識と体制が観光日本時代にマッチして進化していませんから
最近の0-157発生事件では幼児の死者が出てから騒ぎが拡大。
惣菜店、監督省庁、マスコミなどの議論からは
日本人の衛生知識、衛生思想が先進国とは思えないレベルである
ことを再認識させられました。
感染症は後遺症が怖いことを認識すべきでしょう。
特に幼児、子供は腎臓、肝臓や脳神経の慢性疾患や悪性腫瘍に悩まされるケースが
珍しくありません。

10年前に神奈川県を中心に雪印傘下の農協牛乳、メグミルクなどの
乳製品にヨーネ病が多発しましたが、その後も牧場で子供たちが消毒の有無を
聞かずに生牛乳を飲んだり、アイスクリームを食べることに親は躊躇していません。

2007年に顕在化した牛乳汚染のヨーネ病は難病のクローン病? 平塚市で雪印の農協牛乳、メグミルク学給62万本を回収
1. ヨーネ病感染牛の牛乳が関東圏に流通 神奈川県平塚市でヨーネ病の疑いのある牛からの牛乳が関東圏の 学校給食やスーパーに供給されていた事件(62万本を回収)が 2007年10月下旬に発生しました。 福島県郡山で10月上旬に発生したブルセラ

またテレビでは有機栽培でもない農場の畑を取材するレポーターが果実や
野菜を洗いもせずに口に入れるシーンも日常的。

2001年には輸入牛肉が原材料の「牛タタキ」を汚染源とした
O抗原の腸管出血性大腸菌が7都県で発生、240名の感染者が報告されました。
その後の2011年には韓国生肉料理ユッケ(O111とO157)の事件
2012年には白菜の浅漬けの食中毒事件。
60名以上の患者が発生した馬刺しの食中毒事件。
挙げればきりがなく、重症者が発生する食中毒事件が絶えることなく
発生し続けています。

事件が起きても「のど元過ぎれば熱さ忘れる」では事故がなくなりません。
食中毒事件最大の被害者は幼児と老人。
外食で幼児に刺身を食べさせる、外食弁当を食べさせることに
ためらいの無い風習は、出来るだけ避けたいものです。

 

2. 2017年8月に群馬県、埼玉県で0-157による死者が発生

2017年8月中旬、惣菜販売の「でりしゃす」各店で
ポテトサラダ、コールスロー、炒め物、天ぷらなどを購入して
食べた人が次々と腸管出血性大腸菌O157に感染。
「でりしゃす」はすき家、牛庵、はま寿司、ココス、アバンセなどで知られるゼンショー傘下の
フレッシュコーポレーション(群馬県太田市)が経営する惣菜販売店。
0-157の遺伝子型は発生各店ともに同型だったことから感染源は同一ではないかと
疑われています。
9月上旬には群馬県前橋市の「でりしゃす」六供店で購入したタケノコやエビの炒め物
を食べた3歳の幼児が0157中毒から腎臓障害(Hemolytic Uremic Syndrome:HUS)を
引きおこして死亡。騒ぎが一段と拡大しています。
「でりしゃす」で0-157に感染した総人数は24人といわれ、
群馬県前橋市の六供店11人、埼玉県熊谷市籠原店12人、同市の熊谷店1人。
免疫力、抵抗力に優れた成人は自覚症状が少ないことが多いために
感染者総数はあくまでも通院、入院して検出テストで陽性の人数。

同じ頃発生した安楽亭の焼き肉による0-157発生とリンクしているかは不明ですが、
今年3月の米国での大豆バターペースト事件では汚染牛肉との関連も疑われています。

 

3. 2017年のO157集団感染の原因は大豆バター・ペースト

 


米国では2017年3月にI.M. Healthy社の販売する大豆バター・ペースト
(商標:SoyNut Butter)による
O157:H7の広域感染(Multistate Outbreak)が12州で32名が報告されています。
大豆バター・ペーストはピーナッツ・バターにアレルギーを持つ児童に
広く愛用されている商品でした。
12名が入院。9名が腎臓障害(Hemolytic Uremic Syndrome:HUS)に発展。
32名の内26名が18歳以下でSoyNut Butterを摂食していたそうです。
この集団感染の源点としては牛肉製品製造会社の関与も疑がわれています。

 

4. 2006年のO157集団感染の原因は生鮮ホウレンソウ   

                        
2006年に短期間で全米に波及した
オーイチゴーナナ変異菌(Escherichia coli O157:H7)は汚染された
生鮮ほうれん草・サラダが原因。
集団感染者は2006年9月25日現在、25州で175人でした。
93人が入院、28人が腎臓障害(HUS)に陥り、29人の感染者が出た
ウィスコンシン州では1人が死亡しました。
感染者の内訳は126人が女性、16人が5歳未満で、女性が多いのが特徴的。

感染者、死者こそ少ないものの、短期間で全米に拡大したことで、
全米の野菜や果物の相当部分をまかなうカリフォルニア州の
生鮮野菜食品産業の構造的な欠陥が指摘されました。

カリフォルニア州は乳牛と野菜の一大産地ですが、二つの産地は隣接しており、
古い灌漑施設で結ばれているためO157を腸管などに常在的に保菌する
乳牛の排せつ物が混入する事故が絶えません。
秋の収穫期を迎えるホウレンソウ産地では深刻な経済的打撃を受け、
その打撃は今に続いています。
(参照:第6項のO157集団感染事件の背景と問題点)

食品医薬品局 (FDA)によれば、この感染源は
カリフォルニア(San Juan Bautista)の
大手加工業者(*旧ナチュラル・セレクション・フーズ:Natural Selection Foods LLC)の
生鮮ほうれん草が中心のパッケージ・サラダ。
ただし汚染が疑われ、リコールされて販売停止対象となったのは
生鮮品であり、缶詰、幼児用ペースト、冷凍品は対象ではありませんでした。

旧ナチュラル・セレクション・フーズ社は26,000エーカーの有機栽培農地を
持つ全米一の有機サラダ加工販売業者でした。
1990年代にサラダ用の特殊パッケージを開発し、スーパーで売りやすく、
消費者に便利な、葉野菜、チーズ、果実、ナッツ、ドレッシング等が
セットになっているパッケージ・サラダ(bagged salads)を売り出し、
全米の食品スーパー経由で流通する有機栽培サラダの75%を占めるように
なりました。
サラダ・バッグはアースバウンド・ファーム(Earthbound Farm)の
ブランドで約100種類のサラダを自己販売すると同時に、
大手生鮮食品業者のドールを始め、30前後のバイヤース・ブランドを通じて
販売していました。
またBalducci’s や FreshProなどいくつものブランドで、ヴァージニア、メリーランド、
ワシントン、ニューヨークなど東部海岸にも流通していましたが、
これが短時間に25州にもまたがり発生した原因といえます。
*㊟
大規模な中毒事故頻発の後に、アースバウンド・ファームは社名となり、乳製品会社傘下の
WhiteWave Foodsなどにより買収が繰り返され、最終的にWhiteWave Foodsを
買収したダノン(Danone)によって2017年4月にDanoneWaveとして再出発しています。

 

5. カリフォルニアの生牛乳によるO157集団感染

カリフォルニアは全米最大の乳牛及び乳製品生産地ですが
カリフォルニア公衆衛生部によれば2006年9月18日に
2名の児童がO157:H7によるhemolytic uremic syndrome (HUS)の発症が
確認されました。
同じ牧場ではその後3週間に、4人のO157:H7感染者が確認されましたが、
いずれも未消毒の生ミルク(unpasteurized cow milk)や分娩後数日間に
分泌される生の乳汁(cow colostrum)を飲んでいたそうです。
* the California Department of Public Health (CDPH)

 

6. カリフォルニアのO157集団感染事件の背景と問題点

2006年の事件が大騒動になった背景には、ほうれん草やレタスによる
O-157の集団感染が、1995年からの約10年間で20回も起きていたことが
あげられます。
カリフォルニア州の農産物生産は灌漑システムの発展と共に、
安い労働力を求めて内陸のサンホワキン川沿いの地域(San Joaquin Valley)に
広がっていますが、事件の起きたサリナス渓谷周辺(Salinas Valley)は
19世紀からの歴史の古い農産地で、現在は集散地や加工地ともなっています。
食の安全を管理する食品医薬品局(FDA)は汚染地として、
この地域のモントレー(Monterey)、サンベニト(San Benito)、
サンタクララ(Santa Clara)の3郡をあげていますが、識者や研究者によれば、
1,200エーカーの生産がある他のホウレンソウ生産者の
保護(1エーカーで400万円近い損害となります)とパニックを防止するための
行政的配慮であり、真実はより広範囲であり、簡単な事件ではないという認識があります。

カリフォルニア州は全米一の農産物生産地。
年間300億ドル(約3兆5千億円)平均の出荷額がありますから、
中毒事件の拡大は州経済にも打撃を与えます。
当時はホウレンソウ関連の企業にはレイオフが始まったことも
伝えられていました。
現地では灌漑システムを含めた水のシステムの老朽化が指摘されており、
他の野菜類、果実類への感染拡大も懸念されていました。
旧ナチュラル・セレクション・フーズのパッケージ・サラダや
他社のサラダにはホウレンソウばかりでなく、フルーツ類、ナッツ類、
ケール(kale)、からし菜(mustard greens )、アングラ(arugula)、
コラード(collard greens)(主として南部で生産されている)などの
葉野菜が使用されていましたから、ホウレンソウ以外にも汚染の
可能性があるという認識でした。
また野菜、果物、ナッツ生産のカリフォルニア州への偏在が、
生産者、加工業者、販売業者の巨大化を生み、ナショナル・ブランドの
確立とともに、微生物に汚染された場合は急速に全米へ浸透することにも
危機意識が持たれています。

 

7. (参考)オーイチゴーナナ(0-157)(腸管出血性大腸菌)

0-157は大腸菌(Escherichia coli)の一種ですが、
中毒すると下痢と共に腸管壁から出血するために、
腸管出血性大腸菌と呼ばれ、産生されるベロ毒素
(Shiga-like toxin、verotoxins)が腎臓などを冒します。
大腸菌のベロ毒素(verotoxins)はコレラ菌、赤痢菌が排出する毒素と同様です。
これまでのケースではベロ毒素を排出する菌の70%くらいがH7とよばれる
比較的新しい変異株(1982年に分離)で、2006年の米国の集団感染もH7株。
ウィルスではありませんから、免疫力が充分な健康な成人にはそれほどの
脅威ではありませんが、乳児、幼児、老人が感染した場合は
重症になるケースが多くなることが知られています。
またベロ毒素により腎臓障害(Hemolytic Uremic Syndrome:HUS)を
おこした場合や、高血圧症患者がベロ毒素に感染した場合は死亡率が
高くなるという研究があります。
オーイチゴーナナ(0-157)は摂氏80度、15秒間の加熱で死滅するといわれます。
煮沸の場合は100度以上が推奨温度です。

 

8. (参考)カリフォルニアのホウレンソウ産業

米国のホウレンソウ(スピナッチ)総生産量はカリフォルニア州が
48%を占めます。
近隣のアリゾナ、テキサス州を合わせれば、その合計は90%にもなり、
生鮮に限ればカリフォルニア州は全米の69%(1996年)を
占めたことがありました。
カリフォルニア州ではモントレー(Monterey)、
サンベニト(San Benito)、リバーサイド(Riverside)、
サンタバーバラ(Santa Barbara)、ヴェンチュラ(Ventura)の各郡が主産地です。

 

9. (参考)モントレー郡のホウレンソウ産業

モントレー郡のサリナス渓谷(Salinas Valley)はカリフォルニアの
ホウレンソウ生産の74%を占める大産地で、レタスも全米の80%を
占める生産量があり、郡都のサリナス(Salinas)は
世界のサラダ・ボール(Salad Bowl of the World)との呼称があります。
カリフォルニア州のスピナッチ(ホウレンソウ)生産金額の記録は
1996年の258百万ドル(約300億円)ですが、モントレー郡が
約3分の2の188.2百万ドルを占めました。
サンフランシスコから比較的近いモントレー郡は
モントレー半島のカーメル(Carmel by the sea)や、
デルモンテ社のぺブルビーチが観光地、ゴルフ・リゾートとして知られています。
カーメルはクリント・イーストウッドが市長となり日本でも有名になりました。

初版: 2006年9月26日
改訂版:2017年9月15日

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