けい肺が怖いグラスファイバー建材
アスベストの有害性が広まるに連れて、断熱材の選択に関心が
集まるようになりました。
住宅では屋根材、屋根下地材、壁下地材、天井材にアスベスト建材、木造の
断熱材にはグラスファイバーが実績あります。
ビルなどコンクリート建築関係にはロックウールが使用されますが
ロックウール、グラスファイバーともに、製造段階で混入する
鉄分や珪素鉱物の微細な粉末がアスベスト同様、肺がんなど肺疾患を起こす
危険性を無視できない素材です。
グラスファイバーは繊維状に造る製品ですからアスベストより組成は大きく、
その塵芥は一般的に呼吸器によって侵入を阻止するといわれますが、
取り扱いが悪い場合は発癌物質となる可能性を否定できません。
ケベック州(カナダ)のアスベスト採石場.
米国、欧州が輸入禁止後も日本が輸入していた.
1. けい肺(silicosis、シリコーシス)
グラスウールなどに含まれる珪素鉱物には、けい肺とよばれる肺疾患が知られます。
通常は花崗岩など火山岩(火成岩)の石材を加工する職人に多発することで知られていますが、
他の職業や、2014年9月に御嶽山噴火で火山灰を吸飲した登山者など
一般の人にも無縁ではありません。
墓石や建材に日本人、韓国人が好む花崗岩(御影石)は60-70%が
長石や石英など酸化ケイ素鉱物で組成されています。
酸化ケイ素鉱物の微細粉はガラス状の鋭い破片となり、普通の土砂にも
多量に含有されていますから、一般的な粉塵も安全とはいえません。
2. ロータリースパンガラス(rotary spun fiberglass)とけい肺
オンタリオ州(カナダ)にはファイバーガラスが死に至る疾病の原因であるという
疫学的研究があります。
コーニングガラス(Owens-Corning)のグラスファイバー製造に従事する作業員が
肺がんになる可能性が2倍以上高いというものです。
この調査結果によってオンタリオのガラスファイバー工場は閉鎖されましたが、
オハイオ州(米国)ニューワーク(Newark, Ohio)のコーニングガラス工場でも、
地域の住民が、工場の作業員が退職後早死にすることを不思議に感じていました。
この事柄から肺がんとファイバーガラス製造法であるロータリースパンガラスの因果関係が
指摘されるようになりました。
2000年11月に出版されたENRの出版物にもファイバーガラス製造時の砂に含まれる
シリカがアスベストーシス(Asbestosis)と同様なシリコーシスの原因となることが記載されています。
シリコーシスはアスベスト疾患と同様に発病までに何年も時間がかかり、診断が難しいことで知られています。
3. ロータリースパンガラスとは
グラスファイバー製造工場で問題になるのは溶融されたガラス(リサイクルガラスなど)に
珪素(シリカ)を含有した微細な砂を混入し、細いチャネルを通して噴出する
ロータリースパンガラスと呼ばれる製造法(2005年現在)。
このときにチャネルを通りそこなった微細な粉末が特に危険といわれます。
5ミクロン程度のファイバーが出来上がりますが、呼吸器に侵入するのは3ミクロンから1.5ミクロンと
いわれますから、理論的には繊維そのものは安全といわれます。
危険なのはガラス繊維が脆く、衝撃などで破壊された場合に珪素の微細な結晶が飛び散る危険。
グラスファイバーメーカーでは、工場の作業員にマスクを義務付け、ファイバーガラス建材の
施工作業員にも危険性を警告しているといいますが、
筆者が工場に問い合わせた限りでは問題意識は低いようです。
4. 海外におけるグラスファイバーの発がん性研究
職業の健康と安全機関OSHA)(Occupational Safety and Health Administration)や
国際がん研究所(IARC)(International Agency for Research on Cancer)などは、
90年代からグラスファイバーの発がん性を指摘していました。
グラスファイバーが皮膚に突き刺さり、炎症を起こすことは常識となっていますから、
その観点での防護策は万全でしょうが、現在でも、ひところのアスベストと同様、
ガラス繊維が肺がんのカルシノーゲン(carcinogen:発ガン原因物質)である危険性は
あまり認知されていません。
肺がんは繊維状、肉腫状など、多様な形態があります。
専門家は肺疾患を発病形態によりいくつかに分けており、おのおの発病の主因は指摘されていますが
、細かく分類できるほど相関は判明していません。
アスベスト疾患同様、肺がんの原因物質として珪素鉱物含有の製造物には、
消費者も含めて認識を新たにする必要があります。
5. アメリカではグラスファイバーの危険性を警告しています。
職業の健康と安全機関(OSHA)では
北アメリカ断熱材製造工業会 (NAIMA:North America Insulation Manufacturers Association),
国際断熱材協会(NIA:National Insulation Association) 、
米国断熱材施工協会(ICAA:Insulation Contractors Association of America) 等と
協力してガラスファイバーの危険性をPR、発ガン防止策の徹底を指導しています。
米国の危険性通達基準 (HCS)(Hazardous Communications Standard)は、
ロータリースパンガラスファイバー使用製品は発ガンの危険性を通知する警告ラベルを添付することを
義務付けています。
6. グラスファイバーの発ガン危険度はグループ3
米国厚生省の国際毒物学計画(The National Toxicology Program, a member of the Department of Health)や
国際がん研究所(IARC:世界保健機構関連機関)は発ガン物質を4つのカテゴリーに分類しています。
グループ 1:人に対して発癌物質である( The agent is carcinogenic to humans)
グループ 2:人に対しておそらく発癌物質と言える( The agent is possibly carcinogenic to humans)
グループ 3:
人に対し発癌物質とは断定できない(可能性はある)(The agent is unclassifiable as to carcinogenicity to humans)
グループ 4:人に対しおそらく発癌物質ではない(The agent is probably not carcinogenic to humans.)
アスベストは1980年にグループ1に指定されています。
グラスファイバーは1994年にグループ2に指定されましたがその後3に変更されました。
ただし、学者間、企業間の力関係で決定される傾向があり、この指定は権威あるものではありません。
限りなく灰色、黒色であっても「疑わしきは罰せず」が通るケースが少なくありません。
国際がん研究所(IARC)が鉱物繊維に関して1987年、2002年に国際評定会議を開催。
指定ジャンルの変更を検討したのですが、変更には抵抗が強かったようです。
またセラミック繊維やマイクログラスウールなど微細繊維については発がん性が強く疑われるために
ジャンルの変更はしませんでした。
初版:2005年11月25日
改訂版:2014年10月