10年前にバンコクで取材.その後に食生活が変わり肥満急増ですが
伝統的食生活を維持しているスリム美人もいまだに健在.
(写真上)ブーケを構成するのは右端のゴーヤを除いてすべてがナスのバリエーション.
日本のナスのイメージとは大きく異なり、同属のジャガイモ、ミニトマトの結実に近い.
色形は異なってもナスは1属1種.すべて同種です.(タイの生鮮市場)
1.クロロゲン酸はスリムなタイ人の大きな秘密
野菜食文化はタイ人スリムの秘密といえますが、野菜の中でもナス属はダイエット野菜の中心的存在。
ナスや同属のトウガラシは疫学的に肥満、動脈硬化を防ぐことが知られていますが、
双方共にタイの人々の痩身(そうしん)と健康を支えている野菜。
コーヒーによるクロロゲン・ダイエットが過去に話題となりましたが、糖の吸収を阻害するといわれる
クロロゲン酸(Chlorogenic acid)は小型の茄子(ナス)や米ナス、ジャガイモで摂取したほうが効率が
良いといわれます。
コーヒーは種によっては10%近い含有量がありますが、焙煎前の生豆の話。
焙煎すればするほどクロロゲン酸は消失します、
ナスは生食やそれに近い調理ができますので高血糖低下や肝臓強化で熱帯地方の健康を支えています。
クロロゲン酸は苦みのポリフェノール.ナスもジャガイモもクロロゲン酸は皮に集中します。
タイで多用される香辛料に近い小型タイプのナスに特に含有率が高いといわれますが、
品種改良を続けて中身が肥満化し食べやすくなっている欧米の種類は大幅に減少しています。
写真下は日本で人気のある水ナス.泉州が名産地で美味しい漬物(写真下段右)がありますが
クロロゲン酸らしきアクはほとんどありません。
*ジャガイモのクロロゲン酸は加熱による消失が少ない有力野菜ですが、揚げ物は
使用油の過酸化脂質、トランス脂肪酸に配慮しないと逆効果となります。
クロロゲン酸はポリフェノールの1種です。

伝統的な和食の欠点は一種当たりの一日食材量が少く、苦みやえぐみを
徹底的に除去すること.このような和食は健康食ではありません。
和食のナス料理なら煮びたしや田楽を薄味にして量を
食べることがお薦め.
日本のナスの苦みは許容範囲.
アク抜きは苦みを除く代わりにクロロゲン酸やビタミンなど栄養素が流れ、
宝を捨てることになります。
クロロゲン酸が少ない大型の加茂ナス類ならば半分.水ナスの標準的な大きさならば
1食最低2個(写真の田楽を4つ)くらいは食べたいものです.
大量摂取には長ナス、子ナスのカレーが適しています.
2.ナスもトウガラシも同じナス科(Solanaceae)ナス属(Solanum).
タイの食文化はナス科(Solanaceae)の野菜を抜きに語れません。
ナス科はタイの野菜文化の中核をなすもの。
他のインドシナ半島国の中でも突出しています。
ナス科は広い科目で、90属を数えますが、数千を超えるといわれる種類を
数えたことのある人はまずいないでしょう。
ナス科(Solanaceae)の中でもナス(Solanum melongena Linn)、
トマト(Solanum lycopersicum)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)が属する
ナス属と1属1種のトウガラシ属(Capsicu)(Capsicum frutescen、Capsicum annuum)は
年間を通して厳しい気象条件のアジアでは特に重要な健康野菜。
双方共に原産地ではなく、歴史も古いほうではありませんが、ナスは
タイの食文化の中核として、なくてはならないものになっています。
3.小粒マルナスのマクワ・プアンは香辛料
英通称:ワイルドエッグプラント(wild eggplant)、ターキーベリー(turkeyberry)、
マメナス( pea eggplant)
学名:Solanum torvum.ナス科(Solanaceae)
タイ通称:マクア・ポアン(マクワ・プアン:Makheua Puang)
カレーやトムヤン・スープなどに使われているグリーンピース様の野菜。
高脂血、高血糖を防ぐ非常に優れた健康食材として知られ、
肥満を防ぎ、心臓血管を強化するといわれます。
マクア・ポアンはタイ人の大好物。
常用野菜(香辛料)としてどこの市場にもあるのはタイぐらいでしょう。
調理では辛口、苦みの香辛料として使用され、ナスと、ごく近い同属のトウガラシ双方を
橋渡しする種類といえます。
トウガラシとナスはこの小さな丸い形から、様々な色、形に多様化、変異してきました。
トウガラシのアルカロイドであるカプサイシン(Capsaicin)は神経系細胞の
活性化に働き、アドレナリン、抗肥満ホルモンなどの分泌を促進することが
期待されています。
(写真上)黄色、白、緑の縞、ムラサキ、薄緑のマルナス(バンコク)
タイ語で色はシー(sii)ですが、マクワ(Makheua)・シー・ムアン(紫)(muang)、
マクワ・シー・ルアン(黄色:lueang)、マクワ・シー・カーオ(白:khao-siikhaao)など、
色別であたかも品種のように呼ぶ人がいます。
ナスやトウガラシの色や形は成長過程でも変化します。
また交雑、交配が容易ですから、トウガラシやナスを色、形で分類するのはナンセンス。
ナスやトウガラシの学名は一つしかありません。
長ナスも形、色が様々.写真上左、写真下左は日本産.写真右上下はタイ産.
クロロゲン酸の観点からは右上または右下の素朴なタイ伝統種が良いと思われます.
クロロゲン酸に限らず結実の栄養素は皮に集中します。
皮の面積が大きくなる小粒、細長型は栄養素が凝縮されます.品種改良で食べやすく、中身を
大型にした野菜、果実をどこまで受けいれるかがこれからの課題でしょう。
(写真上下)クロロゲン酸以上にアントシアニンが豊富な紫色を好むのはマレーシア.
ナスは色、形で様々な名が付けられていますが、生産、流通の便宜上付けられた名前。
Var. (variation)として学者名が登録されているものもありますが、
そのような呼び名は普及していません。
原種に近いナスは小粒で白や紫が多かったようです。
英語でegg-plantと呼ぶのは白くて丸い、卵に似た実だったから。
今でもヨーロッパでは丸くて白いナスが売られていますがクロロゲン酸の見地からは
アントシアニンもクロロゲン酸もほとんど含有しない白ナスはお薦めできません。
写真上はすべてタイで販売されているナス(マクワ:Makheua)
タイ人は生でも食しますが、慣れない日本人には固く、苦みが強すぎる品種です.
写真上左右は日本産ミニトマト.現代のジャガイモが結実するのは稀ですが、結実はこれに酷似.
(写真上)チェリータイプ・トウガラシ(下段右と左)原種に近い丸か円錐の小さな実です。
トマトの花(上左)とジャガイモの花(上右)
トマト(Solanum lycopersicum)とジャガイモ(Solanum tuberosum)は
ナス科ナス属.その花はトウガラシ(Capsicum annuum)、ナス(Solanum melongena)に
似ています。いずれもナス科(Solanaceae)ですからルーツは同じと思われます.
写真上左はトウガラシの花.右はナスの花.
トマト(左)とトウガラシ(右)いずれも日本産
野菜の結実は小型を選び、皮ごと食すのが賢明.
(生鮮食材研究家:しらす・さぶろう)